Who Gets What マッチメイキングとマーケットデザインの新しい経済学

発刊
2016年3月19日
ページ数
320ページ
読了目安
467分
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マーケットデザインの入門書
世の中には、価格だけでは解決できない「市場」がある。進学、就職活動、結婚、臓器移植など、自分が選ぶだけでなく、自分も相手から選ばれなければ得られないものの市場をどのように最適化するかを解説する一冊。

マッチングとは

マッチングとは、私達が人生の中で、自分が選ぶだけでなく、自分も相手に選ばれなければ得られない多くのものを手に入れる方法を指す経済学用語だ。結婚相手を勝手に選べないのと同じで、自分が相手を選ぶだけでなく、選んだ相手によって自分も選ばれる必要がある。

こうした求愛と選別は、構造化されたマッチメイキングの環境、つまり何らかの応募と選考のプロセスを通じて行われる場合が多い。私達の人生の重大な転機や多くの小さな節目は、このようなマッチングのプロセスによって、またそうしたプロセスをいかにうまく乗り切るかによって決まる。

マッチングは市場を通じて行われる。そして市場は恋愛物語と同じように、欲求から始まる。コモディティ市場では、誰が何を手に入れるかは、価格によって決まる。しかし、マッチング市場では、価格はそのような役目を果たさない。「誰が何を手に入れるか」を決定する要因が価格だけではない時、市場では必ずマッチングが行われる。

 

マーケットデザイン

マッチングには、金銭が全く絡まないものもある。腎臓移植には多額の費用がかかるが、誰が腎臓を手に入れられるかは、金銭では決まらない。公教育を受ける機会にも価格はつけられていない。入学を希望するすべての生徒を受け入れるだけの定員枠が良い公立学校にない時には、何らかのマッチングプロセスを通じて希少資源が配分される必要がある。

マーケットデザインは、既存の市場では自然に解消されない問題を解決する手段になる。市場はNYSEのような巨大なものから、近所の農産物直売市場のような小さなものまで、すべてルールに沿って運営されている。市場をよりよく機能させるために、ときおり微調整が加えられていくこうしたルールこそが、市場のデザインである。

 

どんな市場にも物語がある

マーケットプレイスがうまく機能するためにまず何より必要なのは、取引を希望する参加者を大勢集めて、彼らが最高の取引を探し当てられるようにする事だ。参加者が多く集まる市場には厚みがある。市場に厚みをもたせる方法は、市場の種類によって異なる。市場の厚みを維持するための取り組みでは、取引のタイミングがカギを握る場合が多い。NYSEが毎日同じ時刻の取引を開始し、きっかり定刻に閉会するのにも、市場の厚みを維持する狙いがある。

混雑は厚みを実現したマーケットプレイスが悩まされがちな問題だ。これは経済における交通渋滞のようなもので、市場の成功を阻む一大要因である。適切なマーケットプレイスを通じて、実現可能な取引を素早く検討できるようにすれば、参加者は特定の取引が成立しなかった場合にも、まだ他の機会を検討する事ができる。コモディティ市場では、価格がこの役割をよく果たしている。なぜならコモディティ市場では、1つのオファーを市場全体に出せるからだ。これに対してマッチング市場では、1つ1つの取引が個別に検討されなくてはならない。

マッチング市場で難しいのは、参加者全員が自分の欲しいものを突き止めるだけでなく、他のすべての参会者が何を求め、それを手に入れるためにどのような行動に出るのかにも気を回さなくてはならない事だ。多くの選抜プロセスでは、戦略的意思決定が成否の鍵を握る。適切にデザインされたマッチングプロセスには、参加者が戦略的意思決定を行うという事実が計算に入れられている。マーケットデザインは、参加者が制度の裏をかかなくてすむようにして、自分が本当に何を必要とし、何を求めているのかを考える事に専念させる事を目的の主眼に置く場合もある。良いマーケットプレイスがある時、参加者は安全かつ簡単に市場に参加できる。

マーケットデザインの物語は失敗から始まる事が多い。市場に厚みを持たせられない、混雑を緩和できない、安全かつ簡単に参加できないという失敗だ。