妄想する頭 思考する手 想像を超えるアイデアのつくり方

発刊
2021年2月1日
ページ数
240ページ
読了目安
262分
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どのようにすれば想像を超えるアイデアを生み出せるのか
ソニーコンピュータサイエンス研究所で、画期的なユーザーインターフェースの発明をしてきた著者が、アイデアを創り出し、実行に移す方法を紹介している一冊。妄想から想像を超えるものを生み出すための考え方が書かれています。

想像を超えるために必要なのが妄想

イノベーションのスタート地点には、必ずしも解決すべき課題があるとは限らない。例えば、誰もが必要だと考える課題の解決を目指すSDGsは「課題解決型イノベーション」の典型だ。いわば「真面目」な技術開発だ。うまくいけば、間違いなく社会の役に立つ。SDGsに限らず、企業の研究開発部門で行われている技術開発の多くは、こういう「真面目」なものだろう。

しかし、技術開発の道筋は「真面目路線」ばかりではない。誰も課題を感じていないのに、世の中の大きなニーズを引き出して大ヒットする製品もある。真面目なイノベーションが「やるべきことをやる」ものだとしたら、「やりたいことをやる」のが非真面目なイノベーションだ。未来に何が起こるかをすべて予測することはできないため、非真面目路線も必要である。今の時点で「正しい」とわかっている課題の解決だけを目指せばよいというものではない。

 

未来を予測して課題を設定し、「これからの世の中はこうなるはずだ、そしてこういう課題があるはずだ」と想像するところから始まるのが、課題解決型イノベーションだ。しかしそれだけでは、想像の範囲内での未来しかつくることはできない。想像を超える未来をつくるために必要なのは、それぞれの個人が抱く「妄想」だ。

 

妄想は「言語化」で整理する

私たちは、現在の延長で物を考えがちである。妄想は、今あるものを飛び越えて生まれるものであり、だからこそ新しい。何かを妄想している時、最初からそれが新しい発想だとは自分でもわかっていないかもしれない。むしろ「なんでこうなっていないんだろう」と漠然と思っているだけで通り過ぎてしまう場合も多い。だから、妄想によって「新しいことを生み出す」には、思考のフレームを意識して外したり、新しいアイデアを形にし、伝えたりするためのちょっとしたコツが必要だ。

 

妄想は、人から「これが面白いんじゃない?」などと与えられるものではない。自分の「やりたいこと」だ。ちょっとした思いつきで生まれることもあるから、他人には何が面白いのかよくわからないことも多い。しかし、ほとんどの仕事は、自分ひとりでは進められないため、仲間や世間などに理解できるように伝えることが必要である。

ところが、妄想レベルのアイデアは他人どころか本人にも、その意味や面白さがはっきりとわかっていないことがしばしばある。したがって、妄想を実行に移すには、まずは自分の思考を整理することから始めなければならない。

そのための思考ツールが「言語化」だ。モヤモヤとした頭の中のアイデアをとにかく言語化してみることで、そのアイデアの穴が見えてきて、妄想は実現に向かって大きく動き出す。

 

一行で言い切る

研究者は、自分たちの研究対象のことを「クレーム」という言葉で表す。クレームで重要なのは短く言い切れることだ。そして、それが本当かどうか決着できそうなことだ。妄想の言語化は、このクレームを書くことから始まる。モヤモヤしているアイデアを1つのクレームとして表現することで、話が先に進み出す。

 

自分にも他者にもわかるように整理したのがクレームだ。だから、クレームは一行で書き切るのがベストだ。できるだけ短い言葉に落とし込む。モヤモヤの中からクレームとして切り出せるのは何だろうかと考えることそのものがアイデアを洗練させていく。モヤモヤの内は「面白いはず」と思い込んでいたアイデアが、いざ言語化してみると意外とショボかったということもよくある。しかしそれは、客観的な価値判断ができたということだ。

 

クレームは、あくまで「仮説」でしかない。だから、クレームは検証できるような形で書かなければならない。正しいかどうか、決着がつけられるところが重要だ。