AIの衝撃 人工知能は人類の敵か

発刊
2015年3月19日
ページ数
256ページ
読了目安
294分
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人工知能は人類を超えるか
これまで人間だけの強みであった「自ら学んで成長する能力」を人工知能が身に付け始めた。近年、急速に進化している人工知能の現状と問題について紹介されている一冊。

AIの技術革命

人間の領域がどんどんコンピュータやAI、ロボットなどに侵されようとしている。将棋や囲碁のような伝統的ゲームはもとより、IBMのAIコンピュータ「ワトソン」が企業の経営判断や銀行のコールセンター業務などに導入され、グーグルや世界の自動車メーカーはドライバーのいらない自動運転車の開発を急いでいる。米国の通信社や出版社では文書作成ソフトが自動で記事を書く時代になり、日本の国立情報学研究所では東大入試にチャレンジするコンピュータを開発している。

こうしたコンピュータ科学やAIの爆発的な発達を促している最大の要因が、AIの一種である「ニューラルネット」の技術革命である。ニューラルネットは「私達の脳を構成する無数のニューロン(神経細胞)のネットワークを工学的に再現したAI」と言われてきた。しかし、これは実際には脳をお手本にしたのはシステム全体のごく一部に過ぎず、残りの大部分は数学的なテクニックの集合体だった。動作速度は遅く、応用範囲も個別の用途に限られていた。

 

ディープラーニングの衝撃

2006年頃から、脳科学の研究結果がAI開発へと本格的に応用され、コンピュータやスマホなどが音声や画像を認識するための「パターン認識能力」を飛躍的に高める事に成功した。この技術は「ディープラーニング」と呼ばれ、世界的IT企業が先を争うように開発を進めている。

この技術は、汎用性に富み、当初の「パターン認識」にとどまらず、今後は「自然言語処理」や「ロボット工学」など、様々な分野への応用が期待されている。私たち人間の脳が持つ最大の強みは「何かを学んで成長する能力」である。脳科学の成果を取り入れた「ディープ・ニューラルネット」のような最新鋭のAIは、この学習能力を備えており、これは機械学習と呼ばれている。

機械学習は「コンピュータが大量のデータを解析し、そこからビジネスに役立つ何らかのパターンを抽出する」という技術である。世界70億人以上の日々の活動から生み出される膨大なデータの中には、生身の人間には見えないが、コンピュータだけには見える何らかの相関性や規則性などパターンがある。これらのパターンを抽出できるのが機械学習のメリットである。

 

汎用的知性を持つAIへ

脳研究によれば、私達人間や動物の目が捉えた外界の映像は、ちょうどコンピュータ画面を構成する無数のピクセル情報のようなもの。脳の視覚野は、このピクセル情報からいくつかの特長ベクトルを自動的に抽出する。そしてこのベクトルを組み合わせて「目」や「耳」のようなパーツを描き出し、これらパーツを組み合わせて「猫」や「人」の顔など最終的な対象物を描き出している。要するに脳の視覚野は、段階的に対象物を認識している。

ディープラーニングには、この大脳視覚野の認識メカニズムに基づく、一連のアルゴリズムが実装されている。ディープラーニングの最大の長所は「特徴ベクトル」と呼ばれる変数を人間から教わる事なく、システム自身が自力で発見する能力にある。問題を解決するために必要な「何かに気付く」という能力こそ、これまでのAIに欠如していたもので、この限界を突破した事で、ディープラーニングはAIにおける難問であった「フレーム問題(限られた情報処理能力しかないAIには、現実世界で起こりうる問題の全てには対処できない)」さえ解決するという見方が出てきている。

ディープラーニングは単なる機械学習という枠組みを越え、人間のような汎用的知性を持つ最初のAIになる可能性があると期待が高まっている。その進化のスピードは今後、脳科学と連携する事で、一層加速すると見られている。