スケールフリーネットワークとは
DXを起こすためには、DXが起きる場を布置していくことが重要である。そのためには、「スケールフリーネットワーク」が必要である。「スケールフリー(尺度がない)ネットワーク」とは、大多数のノードがごくわずかなリンクしか持たない一方で、膨大なリンクを持つハブと呼ばれるノードが存在するネットワーク構造である。これは航空網の構造に似ている。大部分の空港は数少ない路線しか持たない一方で、膨大な路線が発着するハブ空港が存在する。
スケールフリーネットワークの特徴は、ランダムネットワークと比べるとよくわかる。ランダムネットワークでは、各構成要素のつながりの数は一定の範囲に収まり、グラフにすると「釣り鐘型」の分布になる。一方、スケールフリーネットワークのグラフは、大部分のノードが少数のリンクしか持たない一方で、ごく一部のノードに膨大なリンクが集中する「べき乗則」である。つまり、スケールフリーネットワークは各ノード間に極端な「格差」が存在する不平等な世界である。この構造は、人間関係やインターネットに見られるだけでなく、自然界にも幅広く存在する。
スケールフリーネットワークがイノベーションを生む
スケールフリーネットワーク上では、一部のハブが膨大なリンクを持ち、強大な力を発揮する。逆に言うと、少数のリンクしか持たないノードが無数に存在し、この多様性が大きな強みとなる。スケールフリーネットワークが持つ多様性は、イノベーションを生む土壌になる。新たなアイデアは、一見まったく関係ないように見える別々の要素の組み合わせによって生まれてくる。
多様な要素がネットワークでつながるスケールフリーネットワーク上では、互いに関係のない要素同士が偶然つながり、まったく新しい切り口が生まれる可能性がある。さらに「パーコレーション(浸透)」という現象が起こりやすく、急速に広がりやすい。つまり、新しいアイデアが生まれて、それが多くの人にとって魅力的であれば、ごく短期間でネットワークの大部分に広がる。
次は産業の世界がスケールフリーネットワーク化する
GAFAが大きく成長できた背景には、スケールフリーネットワークの力が働いている。グーグルはウェブサイトのリンク構造を、フェイスブックは人のつながりを可視化してスケールフリーネットワーク化した。彼らははじめから収益化を考えたビジネスモデルを構築するのではなく、まずはネットワークを育てることに注力した。彼らが特別だったのは、ネットワークのスケールフリー性を加速する仕組みが最初から組み込まれていたことである。利用する人たちが、自然とハブを形成し、スケールフリーネットワークの成長を促進する振る舞いをするような構造になっていた。
現在進行形のスケールフリーネットワークの例には、ドイツが進める「インダストリー4.0」がある。これは、工場のあらゆる装置をインターネットにつないだ「スマート工場」を作ろうという試みで、ドイツ政府が主導し、産官学一体となって進めている。これは製造業をスケールフリーネットワーク化しようという試みと言える。
インダストリー4.0の世界になると、生産システムのあらゆるコンポーネントが階層の垣根を超えてつながるようになる。必要な時に必要な機械やセンサーの情報を自由に取れるようになる。また、1つの工場内だけでなく、他社の生産設備ともインターネットを介してつながれるようになる。
この世界を実現するために定義されたのが「管理シェル」である。これは生産システムに関わる「すべてのモノ」をインダストリー4.0の世界につなぐためのインターフェースになる標準化されたデータ形式で、インダストリー4.0の核心部分と言える。ドイツは、この管理シェルを無償で公開し、世界中にばらまいた。これを世界中の工場が採用すれば、自然と産業のスケールネットワークができあがる。
スケールフリーネットワークの作り方
製品にかかわる技術をできるだけオープンにし、他社の製品やサービスが自由に接続できるようにすると、ユーザーが自分のニーズに合わせて自発的に様々な製品をつなぎ始め、ネットワークが育ち始める。このネットワークが育った時にスケールフリーネットワークが生まれる。
自社製品の一部アセットを先に開放し、あるいは仕様を公開して、誰でも接続可能にすることが、多大なコストも時間もかけずにスケールフリーネットワークを作る強力な手段となる。オープン化戦略を採る上では、「どこまで手元に残し、何を公開するのか」を慎重に検討する必要がある。