知らないことをどれだけ現実的に確認できるか
どんな投資家も、生まれつき自分に備わった感情からは逃れられない。人はリスクを避けたがり、買った値段に縛られ、「後知恵バイアス」に操られる。そして、投資での失敗はたいてい自業自得で、客観的な事実を受け入れてそれに対処するのは、非常に気の重い作業だ。だが、私たちは過去の失敗を基に、将来の判断が歪まない方法を見極めなければならない。
投資は身をもって経験しないと何も学べない。何度も繰り返し実践するのみだ。投資は非常に難しい。誰でも必ず間違いを犯す。しかもそれを何度も繰り返す。そして新しい間違いを発見する。重要なのは、失敗を冷静に受け止め、あまり深刻に考えないことだ。私たちの頭は一旦ネガティブ思考に陥ると、そこから抜け出すのが非常に難しいからだ。
成功した投資家に共通する最も重要な要素は、自分がコントロールできることだけを心配する、という点だ。あくまでも自分の土俵で勝負しようとする。
完璧な法則は存在しない
ベンジャミン・グレアムは物理法則が証券分析には適用できないとわかっていた。グレアムの経験から投資家が得るべき最も重要な教訓は、「バリュー投資は万能薬ではない」ということだ。安い銘柄はもっと安くなり、高い銘柄はもっと高くなる。「安全域」の計算は誤る場合があり、企業価値が市場で実現しないこともある。
グレアムは安全域を、株式の「内在的価値(=本質的価値)と、それを下回って売られている場合の差分」と定義した。グレアムは、時価総額が正味流動資産(流動資産–負債)の2/3を下回っている銘柄を好み、大きなリターンを得た。しかし、グレアムの本当の素晴らしさは、企業の内在的価値を決定する際の優れた計算方法にあるのではない。企業の正確な価値を測るのはそもそも不可能であり、成功のための前提条件でもないことを理解していたことだ。価格が価値よりも大きく変動するのは、価値を決めるのは企業だが、価格、つまり株価を決める。
バリュー投資は直観的には理にかなっているが、人間の感情は理性を凌駕する。株価は、清算価値を下回ることもあれば、企業が合理的に期待できる成長率をはるかに超えて上昇することも十分あり得る。バリューに目を配ることは非常に重要だが、その奴隷にならないことがより重要だ。
自信過剰に気をつけろ
私たちは実際以上に将来のことをわかっていると思いがちだ。この傾向は、投資にも様々な形で現れる。その1つが「授かり効果」と呼ばれる心理バイアスで、人は何かを購入すると、所有する前よりもそれを高く評価する傾向があることを意味する。この「授かり」の主な効果は、「自分が良いものを持っているという納得感を高めることではなく、手放すことへの痛みを増幅させる」ことだ。
以前はよくわからなかった事柄に対して一旦判断を下すと、それに対する確信が際限なく膨らむ。私たちのDNAには、自信過剰になりやすい傾向が埋め込まれているので、理屈ではわかっていても、その誘惑から身を守ることは非常に難しい。
ウォーレン・バフェットは、投資家が自信過剰に対処する非常に優れた方法を紹介する。「穴を20個しか空けられないパンチカードを渡されて、残りの人生であと20回しか投資できないと考えなさい。そうすれば、自分がしていることについて、これまでよりもずっと注意深く考えるようになるだろう」と助言する。この助言は、投資のたびに深く、慎重に考えることがいかに重要かを思い出させてくれる。私たちは時間をかけて何かを考え抜くと、行動や思考が落ち着き、衝動的な行動が抑制される。