自分だけのストーリーを語る
講演者の一番の使命は、自分が心の底から大切にしている「何か」を取り出して、聞き手の心の中にそれをもう一度築き上げることだ。その「何か」を、アイデアと呼ぶ。人々が拠り所にし、持ち帰り、価値を見出し、ある意味で人生を変えられるような概念だ。
パブリックスピーキングで本当に大切なのは、自信でも、存在感でも、口のうまさでもない。「語る価値のある何か」を持っていることだ。世界の見方を変えてくれるものは何でも「アイデア」だ。人の心の中に説得力のあるアイデアを植え付けられたら、奇跡を起こしたことになる。
世界中であなただけにしかないものは、あなた自身の一人称の人生経験だ。最高のトークの多くは、個人的なストーリーとそこから引き出される教訓に基づくものだ。ストーリーの教訓はありきたりなものでも構わない。みんな人間だから、何度も教えてもらう必要がある。重要なアイデアを新鮮なストーリーで包んで、上手に伝えられたら、素晴らしいトークになる。
聞き手の理解しているものから始める
言葉の魔法は、話し手と聞き手が理解を共有できる範囲でしか効かない。そして、誰かの頭の中にアイデアを再生する鍵がここにある。それは、聞き手の持っているツールしか使えない、ということだ。あなたの言葉、あなたのコンセプト、あなたの思い込み、あなたの価値観から始めると失敗する。逆に聞き手のものから始めよう。共通の土台がなければ、彼らの頭にあなたのアイデアを植え付けることはできない。
物語に一貫したテーマを持たせる
トークの目的は、意味のある何かを伝えることだ。聴く人に残るものが何もないトークになる理由は、講演者がトーク全体を正しく計画できていないことにある。箇条書きを並べ、文章をつないでトークを準備したかもしれないが、全体を貫く横糸については全く時間を使っていない。
スルーラインとは、1つ1つの物語の要素を1つにまとめる、一貫したテーマのことだ。どんなトークにもこのスルーラインが必要になる。凄いスルーラインでなくてもいいが、好奇心をかき立てる何らかの切り口がないといけない。はじめに聴衆についてできる限りの情報を集めること。相手は誰なのか、どのくらい知識があるのか、何を期待しているのか、何を気にかけているのか。興味をそそる話をするには、きちんと時間をとって少なくとも次の2つのことをしなければならない。
①なぜこの話が大切なのかを説明する
②それぞれのポイントを実例や逸話や事実で肉付けする
いいトークをするには、トピックの幅を絞り、1本の糸でつなげなければならない。的を絞ることで、インパクトは格段に強まる。
スルーラインに要素をつなげる
柱となるスルーラインをどう構成するかは、トークによって様々に異なる。最も再生回数の多いTEDの登壇者、ケン・ロビンソン卿のトークは単純な構成に従っている。
①イントロダクション:これから何を話すかを紹介する
②背景:なぜこの問題が大切なのかを説明する
③中心になるコンセプトを語る
④実際にどんな影響が考えられるかを予想する
⑤結論で締める
決められた時間の中で一番インパクトのあるスルーラインが作れて、すべての要素がはっきりとそこにつながっているような構成を見つけることが大切だ。
5つのツール
スルーラインができたら、次の5つのツールを使って、アイデアを築く。
①つながる:自分に引き寄せる
②ストーリーを語る:物語に入り込ませる
③説明する:難しいコンセプトを説明する
④説得する:論理で考え方を変える
⑤見せる:息を飲むほど感動させる