組織をエコシステムと捉えよ
本来、イノベーションを成功させるためには、大手企業がスタートアップのように行動する必要はない。ドル箱事業を、イノベーションに投資するための資金を得る手段として活用すれば良い。
ところが、企業があたかも単一のビジネスモデルを持つ単一組織のように行動しようとすると問題が生じる。そのように考える企業は、スタートアップのように行動するしかないという二者択一をせざるをえなくなるからだ。
大企業がイノベーションを起こす最良の方法は、自らを様々な製品、サービス、ビジネスモデルが共存するイノベーション・エコシステムと捉えることである。そうすることで、ビジネスモデルを確立済みの事業にも、まだ探索モードにある事業案にも、適切な管理ツールを使うことができる。そうすれば企業は探索と実行の両方に優れた両利きの組織になれる。
イノベーション・エコシステムを構築するための5原則
イノベーション・エコシステムは、以下の5つの原則の組み合わせで形成される。最初の2つの原則はイノベーション戦略、次の2つの戦略はイノベーション管理のために用いる。最後の原則で顧客との対話やビジネスモデルの検証を実施する。これらの要素は互いに結びついており、それぞれが「創造・検証・学習」のループを形成する。
①イノベーション投資方針
イノベーションは企業全体の戦略目標の一部であり、全社戦略と方向性が一致しなければならない。既存の大企業にも「イノベーション投資方針」が必要である。そこには、イノベーションの戦略的な目的と、未来に対する見解が明示される。イノベーションの投資方針は、特定のイノベーション・プロダクトを採用する際の境界線として機能する。
②イノベーション・ポートフォリオ
イノベーション投資方針と戦略的目標を達成するために、既存の大企業は自ら製品とサービスのポートフォリオを確立する必要がある。このポートフォリオはイノベーションの全領域(中核領域、隣接領域、変革領域)をカバーする製品で構成されるべきである。また事業ポートフォリオには初期段階の製品だけでなく、事業として成熟し確立された製品も含める。目標は、異なる成長段階にある様々なビジネスモデルをバランス良く含む事業ポートフォリオを構築し、管理することだ。
③イノベーション・フレームワーク
投資方針を実行し、製品とサービスのポートフォリオを管理するためには、「探索」から「実行」までの工程を管理するフレームワークが必要となる。フレームワークにはアッシュ・マウリャの「ランニング・リーン」、スティーブ・ブランクの「投資レディネス・モデル」などがある。
④イノベーションKPI
イノベーション・フレームワークを導入したら、今度は事業の成功を図るための指標と、これに応じた適切な投資手法が必要である。
・報告用KPI:アイデア創造から事業拡大までの進捗状況を測定
・ガバナンスKPI:実証済みの仮説とイノベーション成長についての進捗を測定(投資判断を行うため)
・全社的な視点で事業に対するイノベーションの影響を評価
⑤イノベーションの実践
イノベーション・チームによる事業開発にもイノベーション・フレームワークを適用する。イノベーションの実践の基本原則は単純で、検証によってビジネスモデルの有効性を実証する前に事業を拡大してはならないというものである。従って、探索段階におけるイノベーターの仕事は、価値仮説(製品は顧客のニーズを満たしているか)と成長仮説(売上と顧客を増やすための方法)を検証することになる。