リバース・イノベーションは途上国で生まれる
イノベーションは一般的に、富裕国で始まり、その後で途上国に向かって川下へ流れていく。しかし、途上国で最初に採用されたイノベーションが、重力に逆らって川上へと逆流していくことがある。これを「リバース・イノベーション」という。
歴史的に見ると、リバース・イノベーションは珍しい。従って、途上国ではイノベーションなど必要ない。懐に余裕ができたら、富裕国から欲しいものをただ輸入すればよいと考えがちである。
こうした前提に立つと、富裕国の顧客層向けに開発されたグローバル製品にわずかな修正を加え、主に機能を落とした低価格モデルを輸出する戦略「グローカリゼーション」だけで、新興国市場を開拓できると考える。
しかし、それは完全な誤りである。富裕国で有効なものが自動的に、顧客ニーズが全く異なる新興市場でも幅広く受け入れられるわけではない。リバース・イノベーションは発明からではなく、忘れることから始まる。富裕層国でうまくいった支配的論理を手放さなくてはならない。
ニーズのギャップに着目せよ
リバース・イノベーションの機会を考える上で出発点となるのが、富裕国と途上国にある5つの「ニーズのギャップ」に着目することである。
①性能
途上国の人々は、超割安なのにそこそこ良い性能を持つ画期的な新技術を待ち望んでいる。これを実現するほどの設計変更は、既存品からスタートしたのでは不可能である。
②インフラ
途上国のインフラは構築中である。そのため、既存のインフラに邪魔されることなく、新規の画期的な技術へと一足飛びに進展する柔軟性がある。
③持続可能性
貧困国が環境負荷の大きい方法で、消費や生産を行うと地球全体で最悪の結果を招く。よって、新興国市場は、「環境に優しい」ソリューションを用いる。結果、新興国市場は、次世代技術を柱とする経済へ、一気に進展していく可能性がある。
④規制
規制による影響を受けない途上国の方が、より早くイノベーションが進展する可能性もある。
⑤好み
各国で、はっきりした味覚や好みの違いがある。
途上国の消費者は、富裕国がいまだ解決したことのない問題を抱えている。さらに貧困国は、富裕国が数十年前に似たようなニーズに対処した際には、まだ利用できなかった最新技術を用いて、自分達の課題に取り組めるという、相対的に恵まれた状況にある。貧困国で機会をつかむことは、一から始めることを意味する。
リバース・イノベーションは逆流する
リバース・イノベーションは、最終的に、貧困国から途上国へと移転していく可能性があり、グローバルな影響力を持ちうる。こうしたイノベーションが、上流に向かうには2つの異なったルートがある。
①今日取り残された市場
富裕国には、市場が小さすぎて多額のイノベーション投資を正当化できない市場が残っている。ex.低価格自動車『ナノ』、マイクロクレジット『グラミン銀行』
②明日の主流市場
富裕国の主流市場では魅力を出せないイノベーションも、ひとたびギャップが解消傾向に転じれば、最終的には魅力的なものとなる。新しい技術は、常に進歩しており、50%のソリューションは、ほんの2、3年で90%のソリューションになるかもしれない。そうすれば、富裕国の顧客は急に強い関心を示すようになる。ex.ネットブック、GE小型超音波診断装置
リバース・イノベーションを無視することは、海外での機会を逃すこと以上に高くつく恐れがある。
マインドセットを転換せよ
リバース・イノベーションのマインドセットを生み出すには、次の3つのステップをとらなくてはならない。
①組織の重心を新興国市場へ移す
②新興国市場の知識と専門性を深める
③CEOが一貫して、新興国市場で勝つことが重要だとする雰囲気づくりをする
リバース・イノベーション戦略の「9つの需要ポイント」
①新興国市場の成長をつかむために、単なる輸出ではなく、イノベーションに取り組まなければならない。
②機会を利用して、新興国市場のイノベーションを他の貧困国、富裕国の取り残された市場、そして最終的に富裕国の主流市場へと移転させる。
③いわゆる新興国の巨人を自社のレーダーで捕捉し続ける。これらの企業は途上国を本拠とし、小さいが急成長を遂げており、いつか既存の多国籍企業を脅かす存在になるというグローバルな野心を持っている。
④人材・権限・資金を、成長している場所である途上国に移す。
⑤リバース・イノベーションのマインドセットを全社的に培う。海外駐在の任務、集中訓練の経験、新興国市場で開催される企業のイベント、創造的な経営陣の登用、はっきり目に見えるCEOの行動を通して、新興国市場にスポットライトを当てる。
⑥途上国ではグローバルとは別の独自の損益計算書をつくり、成長性に関する指標を重視した業績評価を別途設ける。
⑦リバース・イノベーションの機会ごとに最大限のビジネス能力を発揮できるように、ローカル・グロース・チーム(LGT)に権限を移譲する。LGTは創設されたばかりの企業ように振る舞わなければならない。
⑧注意深く管理された協力関係を通して、LGTが自社のグローバルな経営資源の基盤を活用できるようにする。
⑨迅速かつ経済的に、重要な未知の事柄の解明に注力し、リバース・イノベーションの取り組みを統制のとれた実験として管理する。