空き家幸福論

発刊
2020年11月20日
ページ数
296ページ
読了目安
319分
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空き家がなぜ売れるのか
空き家が売れる不動産物件紹介サイト「家いちば」の代表が、空き家売買の事例と仕組みを解説している一冊。社会問題となっている「空き家問題」を解決する1つの方法として注目されているビジネスモデルが紹介されています。

不動産の出会い系サイト「家いちば」

家いちばは、不動産会社が介在せず、売主が自ら売るという仕組みの不動産物件情報サイトである。買い手の問い合わせ内容はそのまま、売主に直接届く。そして、その後の質問などのやり取りや実際に現地を見に来る場合の対応なども売主が直接行う仕組みだ。このやり方で空き家の流通に取り組んでいる。

家いちばを始めた頃は年に数件だったのが、年々数が増え、2020年10月現在で270件の売買実績となり、知名度も上がり、どんどん広がっている。

 

家いちばの売れ筋は100万円前後から300万円くらいまでの「現金で買える」範囲の価格帯の物件である。中にはタダ同然のものもある。都心で生活している人にとっては、土地付き一軒家が中古車を買うような値段で買えることに驚く人も多い。だから売れているという声がある。全国の主に田舎の過疎地の、しかも古くボロボロになりかけている、一般的な不動産市場で見たら需要があるのかどうかもわからない空き家を中心に扱っているが、それらに驚くくらい問い合わせが殺到している。

 

家いちばのサイトには、売主自身が書いた思いの詰まった文章が載っていて、それが好評だ。この文章が買い手の背中を押している。売り手の物語が買い手を動かしているのである。

空き家を手放したいとは思っていても、相手は誰でも良いわけではない。高く売れれば良いというわけでもない。長年、家族が住んできた、親が暮らしてきた家を手放す時、それぞれに色々な思いが溢れてくる。できればその思いをくんでくれる人に引き継いでもらいたい。そう考えている人も多い。「家いちば」のように売る側、買う側が直接にやり取りする仕組みだと、そうした思いが実現できるケースが多々ある。

 

空き家の売却で心の底から良かったと思えるようにするためには親や子供にとどまらず、ご先祖あるいはご近所、地域までも含めて喜んでもらえるような相手に受け継いでもらえることが大事なのである。

 

なぜ空き家が売れるのか

通常、不動産の価格は、土地と建物の客観的な評価額があり、基礎的な鑑定評価の算定基準が定められていて、それを参考に決定されるものだが、そこには売主の人生がどうだったとか、そういう要素は一切加味されない。しかし、家いちばという流通市場では、そのロジカルな価格があまり意味をなさず、取引が日々行われている。

 

買い手が考える買った後の使い道も様々だ。移住というよりもどちらかというと別荘やセカンドハウス、あるいは「遊びの拠点づくり」と言っていいくらいの比較的軽いノリが多い。「何に使うかまだ決まっていない」「買ってから考える」という人も少なくない。
東京に遠くない山奥にある週末だけの別荘、家族の夏の遊び場にする海が目の前の日本家屋、琵琶湖を見下ろす高台の静かな一軒家をアトリエとして使う、静岡の空き家を買って趣味のプラモデルの製作保管の拠点として楽しむなど様々だ。

 

空き家幸福論

お金は人を幸せにするのか? お金があれば、大抵のものが手に入る。現在の日本が物質的に豊かであることに異論はないだろう。一方で、幸福度ランキングでは、日本は先進国で常に最下位であることもよく知られた事実だ。お金がなさすぎるのも不幸だが、カネやモノだけでは幸せになれない。

 

空き家も「不動産」であり、「モノ」そのものだ。ところが、使っていない、あるいは使い道がなくなった不動産だから、その利用価値に応じて、資産価値も下がってくる。それが進行して、多くの空き家が「0円不動産」となっている。モノとしての存在意義がなくなってしまったと言ってもいい。
しかし、そのおかげで、空き家はモノ以外の要素が相対的に大きな存在となってくる。それが「ストーリー」だ。売り手と買い手のストーリーが大きな要素となっていて、両者は自然とそこに着目し、関心を寄せ、結果として幸せを得ている。空き家の売買は通常の不動産と比べて空き家の金銭的な価値があまり大きくないから、物理的な欲望はあまり満たせないかもしれない。その代わり、それを超えた何かを得ることができる。