錯覚の科学

発刊
2011年2月4日
ページ数
368ページ
読了目安
618分
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人間の記憶、判断には錯覚が多いことを学ぶ本
「注意の錯覚」「記憶の錯覚」「理解の錯覚」「自信の錯覚」「理由の錯覚」「隠れた才能の錯覚」という合計6つの心理的錯覚が紹介されている。具体的な事件と実験から、人間の認知のメカニズムの陥穽を明らかにしている。

直感に盲目的に従うことは危険

私たちの誰もが錯覚から逃れられない。錯覚は心の働きと強く絡み合っており、いわゆる「直感」にも錯覚が入り込んでいる。
自分は十分注意を行き届かせることができる、自分の記憶は詳細で正確だといった、直感は間違っている。これら直感に盲目的に従うことは危険である。

 

注意の錯覚

私たちは、自分には目の前のものが全て見えていると考える。しかし、実際には目の前の世界のごく一部しか意識していない。「目は向けていても、見えていない」という事実を人は理解しない。

ex.
2001年、米国原子力潜水艦が日本の漁業実習船「えひめ丸」に衝突する事故があった。艦長と甲板士官は潜望鏡でのぞいていたにも関わらず、えひめ丸を見落とした。後に艦長は「その時私は、他の船がいることを予想も期待もしていなかった」と言っている。
人はあることに注意を集中している時、予期しないものに対して、注意力の欠如が起こる。

記憶の錯覚

人は、見たり聞いたりして何かを取り込んだ後、それをすでに自分が知っているものと関連づける。この関連づけが記憶を取り出すための検索の手がかりになる。
しかし、私たちは自分が記憶しているものと、関連づけや知識に基づいて自ら作り上げたものを容易に区別できない。実際に記憶しているものと、自分が記憶したいものが入り混じる。

ex.
2008年、ヒラリー・クリントンは大統領選で、ボスニアでの恐怖体験を語った。飛行機が着陸した時に銃火を浴びたという話である。しかし、後にワシントンポストが調べ、掲載した写真には、歓迎式典で彼女がボスニアの子供たちにキスする姿であった。この記憶の歪みが、嘘つきとのイメージを与え、大統領候補の指名争いで敗退の要因となった。

自信の錯覚

人は自信溢れる言葉を信じる。しかし、多くの心理学者は自信の度合いは、言葉の内容の正しさを決めるものではないとしている。

ex.
1984年、ジェニファー・トンプソンはレイプの被害者となった。トンプソンは、犯人の顔を全神経を集中して記憶したと証言し、容疑者が逮捕された。物的証拠がない中で、自信を持って断言する彼女の証言を陪審員は信じ、容疑者は有罪となった。しかし、10年後のDNA鑑定による再捜査で、その容疑者は犯人でなかったことが判明した。

原因の錯覚

人は、原因と結果に相関関係がないにも関わらず、原因を錯覚することで根拠のない話を信じる。

ex.
「週に最低3回セックスをするカップルは、週2回の人より10歳以上若く見える」という研究が紹介された。セックスが若々しい外見を生むかもしれないが、若々しい外見がセックスの機会を増やす可能性もある。若々しい外見とセックスの相関関係を示す統計は、両者の因果関係を示すものではない。

可能性の錯覚

サブリミナル効果は、科学的実験によって否定されている。しかし、多くの人は、可能性に対して錯覚を抱く。

「モーツァルトを聞くと頭が良くなる」という説がある。この効果のなさは、科学的に実証されているにも関わらず、いまだに4割の人が信じている。