シアトルの発展
スターバックス、マイクロソフト、アマゾン、コストコ、エクスペディア、ボーイング。シアトルが世界に通用する製品やサービスを生み出し続けられるのには、地理的な優位がある。シアトルは19世紀に港湾が発達し、アメリカから日本やアジアへの輸出入の基地として栄えた。20世紀にはこの地でボーイングが起業し、本社と主要工場を置いた。これによって空のロジスティクスも充実し、関連する産業の裾野が広がり人材も多く集まった。
このロジスティクスを活用したのが、コストコやアマゾンである。アマゾンはマイクロソフトのエンジニアを多く雇い入れ、急成長した。こうして物流や流通で発展してきたシアトルが今、AIで世界中から注目されている。アマゾンやマイクロソフト、グーグル、フェイスブック、中国のテックジャイアントなどAI関連の大手企業とそのエンジニアが集積し、スタートアップが続々と起業するエコシステムが出現した。
日本企業がシアトル進出を考えるべき理由
米国大企業の集積地であるシアトルが今、AIの活用で全米や世界から注目を集めている最大の理由がAIに精通したエンジニアの質と厚みである。シアトルエリアには「AI」「機械学習」「自然言語処理」を対象とした企業が166社存在する。1年でおよそ倍に増えている。特にAI活用でパートナーを探したり、米国でのビジネスを検討している日本企業にとって、シリコンバレーよりも優先度を上げて検討すべき理由が5つある。
①AIエンジニアを育てるエコシステムがある
マイクロソフトとアマゾンがエンジンとなり、AIエンジニアを引きつけて育て、人材が流動する確固たるエコシステムができあがっている。さらに人材の供給源として、ワシントン大学がエコシステムを下支えしている。ワシントン大学はAIやマシンラーニングに強みを持つコンピューターサイエンスの学科を擁しており、バイオやメディカルなどの分野でも連携したAIの利用が活発である。
②ビジネス分野に強いスタートアップが多い
シアトルのAIスタートアップは、ソーシャルのサービスなどコンシューマー向けが多いシリコンバレーに比べると、ビジネス分野に強い。アマゾン、マイクロソフトが下支えするエコシステムから生まれるスタートアップはBtoBの分野をカバーする企業が多い。シアトルにはマイクロソフト出身を意味する「Ex Microsoft」のスタートアップが数多く存在し、ビジネスソフト/サービスやWeb検索、自然言語処理の研究開発などマイクロソフト時代のノウハウを生かしている。
③「日本」を受け入れる土壌がある
シアトルは元々ボーイングなど航空機産業で栄えた街であり、取引先である日本メーカーのビジネスパーソンが多い。家族も含めた日本人が多く居住している。また、シアトルには400以上のゲーム会社があるとされ、任天堂も米国本社をシアトル郊外に構えている。こうした背景から、ワシントン州政府は日本に対して好意的である。
④エリアの全体像を短期で把握できる
シアトルのAIインダストリーはシリコンバレーに比べると全体像を把握しやすい。1週間も滞在すれば全体像を把握できる。シアトルはアマゾンが本社を構えるダウンタウンと対岸のベルビュー市の2つのエリアに多くの大手企業やスタートアップのオフィスが集積している。
⑤シリコンバレーより生活コストが安い
シアトルはシリコンバレーに比べると、住宅の価格や賃料、物価が安い。売買と賃貸の両方でサンノゼやサンフランシスコなどのシリコンバレーエリアを下回っている。