老舗の流儀 虎屋とエルメス

発刊
2016年10月18日
ページ数
224ページ
読了目安
281分
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老舗の考え方
創業約500年の虎屋17代目と、創業約180年のエルメス前副社長の対談本。
老舗の経営、ものづくり、伝統と革新などをテーマとして、老舗の特徴、大切にしているものは何かを紹介しています。

家業という特徴

虎屋は、たくさん宣伝をして、たくさんのものを売って、大きくなることだけを目指している企業ではない。脈々と続いてきた伝統を守りながら、新しいことに挑戦している。そういった点も、エルメスに似ている。また、代々継いできた家業という点も共通している。エルメスはエルメス家が代々継いできた会社で、現在6代目になる。虎屋は17代目になるが、家業でも歴史は3倍くらい違う。

ただ家業というのは、続けていくことが前提としてあり、自分の代だけ儲けて幸せになればいい、ということには絶対にならない。先代から引き継いできた財産を活かしながら、その時代その時代に合った事業を行い、次の代に引き継ぐことが、いわば生業になっている。

そういう企業で働いていると、従業員全員が「一家=ファミリー」のメンバーのようになっていく。1つのことを目指して、皆でやっているという感覚がある。企業と従業員の関わりが近く密ということである。

本質的に良いものかどうかを、常に追究し続ける

「歴史ある企業の中で、変えることと変えないことの判断をどのように下し、今に至る道を築いてきたのか」という質問をよく受けるが、変えていいことと、いけないことを判断するのは簡単ではない。その時その時で真剣に検討して考えてきたものがある訳で、その結果が継続につながってきただけのことである。やってきたことが必ずしも成功だけではない。

「味は変えないのですか」とよく聞かれるが、「味は変わるものだ」と思っている。今、食べてくださる方に「おいしい」と思って頂かなければいけない。ということは極論すれば、今日と明日で違うかもしれないし、少なくとも数十年前とは違ってくるはず。ただ実際、どれくらい味を変えているかというと、さほど大きく変わっていない。というのは、最初に作った時に、相当吟味しているから、それを超えるおいしさが一朝一夕に作れない。ただただ「おいしい」というレベルを維持するためにどうするのかを、突き詰めてきた。その結果、あまり大きく変えずに今に至っている。

流行に惑わされない

エルメスの考え方に「長きにわたって愛用してもらう」というものがある。エルメスのものは、二代、三代にわたって使ってもらうことが少なくない。つまり、一過性の流行でデザインを変えることを良しとしては来なかった。バッグの「ケリー」や「バーキン」はどちらも50年くらい、ほとんどデザインを変えていない。「今シーズンはこの色や素材がトレンドだから作りました」ということを、エルメスはやってこなかった。そうではなくて、職人たちの美的感覚、質に対するこだわりを形にしてきた。

だから、エルメスのものづくりとは、マーケティングありきではなく、職人やデザイナーが「こういうものがあったらいいな」というところから始める。そういった積み重ねの結果、今のエルメスがある。では、どうやって新しい商品を世に送り出してきたかというと、年に2回、大きな展示会を行う。職人たちが作った新商品を20万点ほど並べるが、徹底して吟味していくので、半分以上は商品化に至らない。最終的にパリ本店に並ぶのは2割程度。選び抜かれた一握りの商品だけが、新たに世に出ていく。

ファッションとは怖いもので、ただ流行を追っているだけだと、最初の年は売れても、次の年に廃れてしまう可能性が高い。エルメスでは、そうやって売れ筋を確保していけばいいという考えを良しとしていない。

勘で判断することが大事

今現在は価値があると思うものが、一年先には、どれだけ価値があるかわからない。そうなると、変えていけないものは何もない。「ここは変えてはいけない」と思うものでも、日々変わっている気がする。

絶対に「変えてはいけない」のは、「最善を尽くして作ったもので、お客様に喜んでいただく」といった精神的な部分。これは、虎屋の仕事の根底に、どっしりとあること。「変えてはいけない」というより「忘れてはならない」ことである。

また、変える変えないの判断については、熟慮したから正しい結論が出るということではなく、ひらめきで決めることも大事である。「これだ」と瞬間的な判断をして、間違っていないことは、意外と多い。そういう瞬間的なひらめきは、ある程度、根拠となる情報を組み込んでいるので、後から振り返っても正しいことが多い。