台湾の天才IT大臣
2020年、新型コロナウイルスが各国を襲い、世界中がコロナ禍に巻き込まれた。パニックが広がる中、人々を守るための力強い対策を迅速に打ち出すことができる専門家に、国境を越えて注目が集まった。台湾のIT大臣、唐鳳(オードリー・タン)も、陣頭指揮を執って完成させたマスクマップアプリの効果で話題の人となり、日本の人々に知られることとなった。
2016年、35歳にして台湾のIT大臣となったタンは、逸話の多い人物だ。IQ180だが中卒、ハッカーでありいつでもプログラムを書ける達人、シリコンバレーの起業家で、ビットコイン富豪、Appleで顧問としてSiriの開発に携わったことがあり、トランスジェンダーである。
IT大臣という職位は、台湾ではデジタル担当政務委員(デジタル政委)と呼ばれ、部長(日本の大臣に相当)と同クラスの上級公務員だ。「デジタル政委」というポストは過去になく、タンは台湾史上初めてこのポストについた。仕事上の役割として、タンは「シビックハッカー(政府が公開したデータをもとに、市民が使いやすいようなアプリなどを開発するエンジニア)」、「政策協働者(多様な関係者と協力しながら政策を立案する人)」、「デジタル大使」、「マスコット」という4つの異なる顔を持つ。
各種のオンラインコミュニティを行き来し、時に二言三言コメントを残すと、それが大きな話題となる。IT大臣になる前から、タンは「台湾のパソコンの達人トップ10」に入ると言われ、依然として台湾最大の電子掲示板では、ほとんど神のような存在だった。
官と民を共同させる
タンは8歳からプログラミングを学び、小さい頃からハッカー文化に憧れていた。ハッカーは社会の進歩の原動力であるべきだと考えていた。それこそが、市民の政治参加に関心を持つシビックハッカーの原点だ。長い間市民社会の問題に関心を持ち、問題解決を志すハッカーのDNAを携えて政府の仕事に入り込んだ。政府の仕事に入り込んだタンによる最初のイノベーションは「人々の望みが叶う場所を作り出す」ことだった。
タンは自ら社会運動に参加した経験から、2016年にデジタル政委に就任すると、官と民との素早いコミュニケーションがどれほど重要であるかを即座に理解した。そのため、JOINというプラットフォームをより積極的に運用し、この署名サイトを「積極的な問題解決サイト」に変えていった。タンはIT業界ですでに共通の認識である「協働」の概念を導入し、さらに自身が協働会議設立の促進を促すファシリテーターとなって、官民間の意思疎通を可能にしていった。
協働は形式も大切だが、様々な人の異なる意見を進んで理解する者がいることの方が、大切かもしれない。そのことをほぼ直感で理解していたタンは、異なる考えの相手に対してすべきことは、説得ではなく、相手の立場をより深く知り、その立場から別の人と口論ができるくらいまで全面的にその考えを理解することだと考えていた。徹底的に理解し、「ゼロサム」を「共和」にしなければ、互いに納得できる共通認識に達することは難しい。「ゼロからの再思考」を掲げるg0vと共に歩んできたタンは、こうした覚悟で協働会議に臨んできた。
タンは、毎回の協働会議を全て実況中継し、会議後に完全な書き起こし原稿をオンラインで公開するというオープンな方法を取ることで、官民間だけでなく異なるグループ間でも信頼を強化できていると考えている。それこそが「オープンガバメントなのだ。