空気のつくり方

発刊
2016年8月30日
ページ数
286ページ
読了目安
273分
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横浜ベイスターズは最下位でもなぜ満員なのか?
横浜DeNAベイスターズは、5年間最下位争いでも、なぜ連日満員なのか。5年間で売上を倍増させ、赤字球団を黒字化させた球団社長によるマーケティング論。

最下位なのに満員の横浜ベイスターズ

横浜DeNAベイスターズの観客動員数は、2011年110万人から2015年には約180万人にまで増えた。年間稼働率は約90%。ベイスターズのハマスタでのゲームは「プレミアムチケット化」した。この間、ベイスターズは勝つことで来場者数の増加を実現した訳ではない。2011年から2015年までのベイスターズの順位は、6位、6位、5位、5位、6位。5年間低空飛行を続けている。

プロ野球の興行においては、経営側の努力ではコントロール不能な領域が存在する。ゲームの勝敗、または天気や気温などの気象条件も経営者にはコントロールできない。その中でも、一番大きな変数要素となりうるのが「勝敗」である。勝敗は来場したファンの満足度を大きく左右する。プロ野球というスポーツは、過去の歴史上、どんなに強いチームでも、2、3回に1回はシーズンを通すと負けている。つまり、1/2ないし1/3の確率でお客様を失いかねない。であるならば、コントロール可能な領域に徹底的に力を注ぐべきである。例えばベイスターズが試合に負けたとしても、球場を訪れたこと自体で満足できるような「ボールパーク」にするのが集客の王道である。

最下位でもお客様が来てくれる理由

ベイスターズが勝てない中、多くのお客様がハマスタに来てくれるきっかけには3つの理由がある。

①コミュニケーション
地元のチームとしての興味関心が潜在的に存在する横浜市、神奈川県に住む多くの方々に、あらゆる情報を届け、コミュニケーションを重層的に積み重ねてきた。

②経営の革新性・透明性
横浜スタジアムのTOBを含め、新しいことに挑戦してきた。さらに経営の経過を透明にし、地元に皆さんに伝え続けてきた。

③ブランディング
「日本一の街・横浜」という街のブランドにシンクロさせるために、広告を含むすべてのデザインにこだわり、おしゃれでかっこいいと感じてもらえるよう、横浜に密着したブランディングを進めてきた。

クラスター分析から始める

空気を作るには、まずは「顧客」の心理や行動パターン、また「今、何を求めているのか」といった本質的な欲求などを知る必要がある。顧客を取り巻く空気を正しく理解してこそ、顧客の中に新しい空気を作っていくことが可能になる。その礎となるのがデータである。

膨大な顧客データを収集し、顧客増や顧客の構成をより具体的に把握するためにクラスター分析を行う。ハマスタ来場者のデータを分析するにあたり「ライト層(年3回以下来場)」と「ヘビー層(年10回以上来場)」に大別するところから始めた。調査の結果、ライト層には、プロ野球が絶対的な娯楽というわけではなく、コンサートや映画鑑賞や居酒屋に飲みに行くことなど、様々な選択肢を持っている層が相当数存在していることがわかった。

マーケットを広く捉え直す

顧客になりうる層が少なかったり、限定されていれば、ビジネスはスケールしない。ニッチな層に狙いを定めるビジネスやあえてエッジを効かせる手法もあるが、一般的に重要なのは、常にできるだけ広くマーケットを捉えておくことができるかどうか。例えばプロ野球ビジネスをする上で「野球が好きな人」だけに狙いを定めても、少子化により野球人口は減り続けており、パイの縮小からは逃れられない。

そこで、映画館や居酒屋やコンサートといった娯楽と横並びに、野球観戦も選択肢の1つに加えてもらえるようになればいいと考えた。「野球の試合を観る」ためにスタジアムを訪れるのではなく「野球をつまみに友人や恋人や家族と楽しい時間を過ごす」ための場としてスタジアムを再定義し、より広いマーケットに訴えかけた。

対象となるマーケットを広く捉え直すことができたら、あとはターゲットに含まれる層に対して、どれだけ「きっかけ」を作っていけるかの勝負。「何か楽しそうなイベントだな」「スタジアムでコンパできるらしい」「最近よく広告を見かけるな」といった小さなきっかけを積み重ねていけば、顧客は自ずと増える。

参考文献・紹介書籍