量子コンピュータが人工知能を加速する

発刊
2016年12月9日
ページ数
192ページ
読了目安
196分
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推薦者

1億倍速いコンピュータの誕生
実現は早くても21世紀後半と言われていた「量子コンピュータ」が突然、商用マシンとして販売が開始された。従来のコンピュータの1億倍速いとも言われる量子コンピュータの仕組みと研究開発の現在を紹介している一冊。

量子コンピュータの実用化はじまる

量子コンピュータという言葉は、1990年代頃から一般に知られるようになってきた。従来型のコンピュータと比べて非常に高速なマシンとして期待されているが、その実用化にはまだあと数十年はかかるのではないかと見られていた。しかし、まだ先だと思われていた「量子コンピュータ」は突然完成し、商用販売されていて、全く別の分野だと思われていた人工知能への応用が進められている。

商用化された量子コンピュータは、これまで開発が進められてきたものとは全く発想が違う「量子アニーリング方式」で動いている。これは、現時点では従来型コンピュータのように汎用的に使える訳ではないが、人工知能をはじめ物流や金融など広い範囲に応用できる。商用化したのはカナダのベンチャー企業で、他にもグーグルやアメリカ政府が同じ量子アニーリング方式のマシンの開発に莫大な投資をするなど、北米で大きなうねりが生じている。

1億倍高速なコンピュータ

量子コンピュータは1980年代に考案され、開発が進められてきたが、実現するのは早くて21世紀の後半ではないかとされていた。それが数年前、カナダのベンチャー企業D-Waveシステムズが商用の量子コンピュータの発売を開始し、そしてNASAやグーグルによって、その性能が「従来のコンピュータに比べて、1億倍高速である」と発表された。

量子コンピュータは、量子力学の特徴を生かし「0」と「1」の両方を重ね合わせた状態をとる「量子ビット」を使って計算をする装置だ。「0」と「1」を重ね合わせた状態とは「0であり、かつ1である」状態ということだ。

最近になって量子力学的な現象によって計算を行うコンピュータが大きな注目を集めるようになった背景には、従来型コンピュータの性能の限界という問題がある。私達が日頃使っているコンピュータは、半導体素子の加工プロセスを微細化することで性能を上げてきたが、微細化には限界がある。

長年、研究が続けられていた量子コンピュータは「量子ゲート方式」と呼ばれる。「量子ゲート方式」では、従来型コンピュータのプロセッサで使っている「ビット」を量子で作り、それを組み合わせることで計算を行う。ところが、量子ビットは「0」と「1」を重ね合わせた状態を作らなければならないが、この重ね合わせはごくわずかなノイズなどで簡単に壊れてしまう。この厄介な問題のために、量子ゲート方式では数個以上の量子ビットを組み合わせたシステムは作れなかった。

この「量子ゲート方式」に対して、ここ数年で突然商用化された量子コンピュータは「量子アニーリング方式」と呼ばれている。量子ゲート方式とは全く異なる方法で計算を行うのが、量子アニーリング方式である。この量子アニーリング方式の量子コンピュータが注目されているのは、それが「人工知能」に応用できるという期待によるところが大きい。

組み合わせ最適化問題を解く

量子アニーリング方式を使ったD-Waveの量子コンピュータは、「組み合わせ最適化問題を解く」という特定の目的でしか使えない。しかし、現実の社会には、組み合わせ最適化問題が非常に多く存在する。例えば、自動運転技術とカーナビを組み合わせれば、あらゆる車のルートを最適化できる。また医薬品メーカーであれば、医薬品の効果を左右する大きな分子の構造の分析に応用できる。

そして、今大きく期待されているのが人工知能への応用である。人工知能を開発するために欠かせない「機械学習」の処理には、どの要素が重要な役割を示すのかを判別する「変数選択」やデータがどのグループに分類されるのかを判別する「クラスタリング」など、組み合わせ最適化問題を含むものが多い。人工知能の応用の範囲は幅広く、高速に計算するマシンができれば大きな社会的価値がある。