ベストプラクティスには賞味期限がある
盲目的に先人たちがやってきたことが詰まったプレイブックに従い続けると、平均的な企業は存続の危機に繋がる時代に、私たちは突入している。「爆破」はこのような問題に対する解決策である。
「いつもこうしてきたのだから」という答えが返ってきたら、習慣的な決定や選択を支配している考え方、すなわち常識の問題だということがわかる。人はこのような行動のロジックに疑問を投げかけるのを怠りがちだ。それは無意識の選択であり無難な方法に過ぎない。しかし、常識とされる行動は、その起源となった理由から隔てれば隔てるほど問題が発生する。
ベストプラクティスの中には、形成された時点で優れていても、一般に広まった際にうまく適用できないものもある。ある状況においては賢明なものでも、状況が変わると、時間とお金の無駄となるため、放棄する必要が出てくるものもある。ベストプラクティスに従うのが鉄則である状態から、ベストプラクティスが問題解決のために考えられるいくつかの方法の1つしかない状態へと変えていく必要がある。
正説を疑い、実用最小限で検証する
正説、すなわち「真実あるいは正確であると認められている信念あるいは考え方」は、常識の中で最も油断のならない形態だ。成長過程で、指数関数的に変化する市場に接する企業に適用されると、深刻な価値の破壊を導き、惨憺たる結果に終わる可能性がある。
ビジネスでは「正説」は長年にわたって蓄積された常識に過ぎない。また、会社で毎日行われる機械的作業と意思決定の土台となっている。ほとんどの正説に疑問を呈する必要がある。これは正説であると察知したら、次のステップで詳しく検証すべきである。
①物事をこのように行うのはなぜかと問い、各々の慣行の起源を掘り下げる。
②その正説がなかったらどうかと想像する。
③社内外で、その正説の枠を外れて行動する人を探す。
④その正説と正反対のことを行う企業やサービスを特定する。
⑤その正説が機能しないような、場所や時代をリストアップする。
その上で、「実用最小限(MV)」の中で、正説に思い切って疑問を呈することが重要である。正説を特定し検討する際には、検証に要する負担を可能な限り軽くするとともに、極力時間をかけずに、正説を覆すためのテストの設計に移る。
この場合の「実用最小限(MV)」とは、広く実行した場合に考えられる潜在的な効果を大まかに見積もることができる一方、もし仮説が間違っていた場合でも不当に大きなリスクをとることがないように、制御されたテストを設計するという意味である。
ベストプラクティス爆破の原則
変革の土台にあるのは次の4つの原則である。
①活動の焦点を、人間行動の理解と促進におく
ほとんどの企業が事業の基本でかつ目に見えないほど小さな要素、すなわち人間行動の変化を見失っている。人間行動を変えるためには、何か異なることを行う気にさせるモチベーションが必要だ。
②すべての行動に「初心」で取り組む
起業家のほとんどは、自分たちが勝つ唯一の方法は、過去の物事がなされた方法を無視することだと考えているかのように事業機会に取り組む。初心は、正説を認識する上でも重要である。
③無常観を取り入れる
ほとんどの人は、企業が永続するかのように振舞っている。本当にプレイブックを吹き飛ばす必要があるなら、諸行無常、永遠に続くものはないという考えを取り入れなければならない。
④テストと学習のために、実用最小限の動きを導入する
失敗を避ける最善の方法は、不確実性が支配する空間においては、間違ったと判明したら即方向を改められる動きをとるようにすることである。