いかなる時代環境でも利益を出す仕組み

発刊
2020年9月17日
ページ数
264ページ
読了目安
339分
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市場環境が変化しても常に利益を出し続ける経営戦略
コロナ禍において、大きく業績を伸ばしているアイリスオーヤマの経営戦略が書かれた一冊。世の中の大きな変化の時こそが、ビジネスチャンスだとして、機会を逃さないための仕組みや利益を出し続けるために行なっていることなどが書かれています。

ビジネスチャンス優先の経営

アフターコロナはニューノーマル(新常態)になる。そして、ビッグチェンジにはビッグチャンスが到来する。テレワークの浸透により、在宅時間はコロナ前よりも確実に長くなる。働き方は元通りにはならず、「巣ごもり消費」は定着・拡大する。事実、消費者はリアル店舗での買い物から、インターネットでの買い物に急速にシフトしている。

アイリスオーヤマの業績は、園芸用品、LED照明、収納家具、調理器具、各種家電など、ホームセンター向けの売上が前期より2桁伸びている。一方、国内のネット通販事業は売上が前期の2倍で推移している。海外でのネット通販は日本以上に好調で、前期の2倍以上のペースで伸びている。

 

アイリスでは、あらゆる設備の稼働率を7割以下にとどめている。注文が増えて7割を超えるようになったら、工場を増床するか、工場を新たに建てる。普段はただの予備スペースとなるが、何かの需要が急に出現した時に、その予備スペースで瞬時に増産できる。コロナ下で、マスクの大増産ができた理由である。

 

震災ではLED照明の増産、コロナではマスクの増産。アイリスはいつも世の中がピンチの時に業績を伸ばすと言われるが、それは危機の時に必ず業績を伸ばせる経営をしているからである。アイリスの経営は、ビジネスチャンス優先である。目の前にチャンスが出現した時にすぐに対応できるように、常に準備をして待っている。

そのために、自社の強みに特化する「選択と集中」戦略と、目先の効率は下がるかもしれないが、決して機会損失を起こさない「選択と分散」戦略の両方を追求している。集中戦略は、目先の効率を高めるが、外部環境の変化には弱い。環境変化を自社の成長に取り込むためには、目先の効率をあえて下げ、資本を分散させる戦略も必要である。

 

多くの人は「見えている無駄」を省こうとする。しかし、見えているところのコストダウンばかりを意識する経営と、見えないところの付加価値を意識している経営では、結果が大きく変わる。見えない付加価値とは、視野を広げれば取り込めるビジネスチャンスである。人口増加時代はチャンスを取りこぼしても、既存市場が伸びていたからよかった。けれど今は、チャンスを逃すという選択肢はどの企業にもない。ならば、稼働率よりも瞬発力を優先する経営に力を注ぐべきである。

 

使う人のことを真剣に考える

特定の製品でヒットを飛ばしても安泰ではない。ヒット商品に頼っていると、製品開発力が弱まり、時代の変化に適応できなくなるリスクも生じる。それを防ぐのが仕組みである。アイリスの利益を出す仕組みの1つが、ユーザーインの仕組みである。需要と供給のバランスで動く市場経済と一線を画すためには、自ら需要を生み出す市場創造型の製品が必要である。

 

プロダクトアウトは、自社の強みを深掘りすることで勝負する戦略。かつては需要が供給を上回っている状態だったから、企業経営の模範とされた。ただ現代は、外的環境の変化や競争条件の変化で需要がなくなれば、強みが帳消しになる危険性が常に伴う。

マーケットインは、業界や市場の要望に応える戦略である。価格競争に耐えるだけの資本力や営業力のあるメーカーは、マーケットイン型で戦うことができる。但し、市場の競争環境によって業績が上下するので、資本力に劣る中堅中小企業が利益を上げるには無理がある。

環境変化に翻弄されない会社をつくろうと思えば、ユーザーの動きをしっかりとらまえたユーザーイン型の経営が必要になる。アイリスのように生活者向けの製品を作っている場合、ユーザーとは「エンドユーザー(使う人)」のこと。使う人が「これは役に立つ」などと満足するかどうかを考えるのが、ユーザーインの思想である。ユーザーとカスタマー(顧客)は違う。問屋はメーカーにとってのカスタマーだが、ユーザーではない。メーカーが、自社の製品を売ってくれる問屋や小売店を大事にするのは当然だが、その先にいる真のユーザーを見ることが経営の要点である。買う人ではなく、使う人の立場になって考えることで、新たな市場を創造することができる。