生活者を突き動かす原理を明らかにしなければならない
事業やマーケティングの戦略を策定するにあたって、競合となる企業や、先進的な取り組みを行う有名企業について情報を収集し、精緻に分析をすることは重要だ。しかし、それだけだと、実際に自分たちが日々向き合っている「生活者」を動かすことができずに終わってしまうことも多い。本当に押さえるべきなのは、そうした「企業の活動」という表層の動きに影響を与えている「生活者の行動」という深層の動きだ。戦略を策定するにあたっては、生活者を突き動かす原理=欲求の正体を明らかにすることから始めるべきである。
欲求とは次のように考察される。
- 欲求は「生活者の内部」から生じるわけではない。
- 欲求は「生活者を取り巻く状況」から生じる。
- 欲求は「生活者・物・情報のつながり」から生じる。
つながり方は変化しており、生活者自身も欲求に気づいていない。
この「生活者・物・情報のつながり」から生じる、生活者自身も気づいていない欲求を「生活者モード」と定義する。
人、物、情報が常につながったことで、我々の欲求は取り巻く環境に影響を受ける
人を消費者という一面だけで捉えるのではなく、多面的な暮らしを営む存在(=生活者)として、全円的に捉える必要がある。人間を丸ごと観察することによって、それまでバラバラに見えていた人物の行動の「連なり」と「おおもと」が見えてくる。そこから行動という結果の原因となった生活者の欲求を解き明かしていく。
人を生活者として捉えると、例えば、職場では「会社員」だが、家庭では「夫」であり、「父親」でもあるはずだ。プライベートの趣味の時間では「地元のサッカークラブのサポーター」であったり、「友人同士で結成したバンドのメンバー」であったり、「皇居ランナー」であったりする。さらには「SNS利用者」「映画好き」「ガーデニングが趣味」といった顔も持つ。生活者の「顔」が変われば、その時の欲求も変化する。重要なのは生活者の顔は、生活を営みながら、その時々で変わっていくということだ。つまり、生活者の欲求は、「生活者を取り巻く状況」に強く影響を受けるものだということである。
現代において社会を大きく変化させているテクノロジーは、「つながる」テクノロジーと捉えることができる。これは、我々の経験に大きな変化を起こしている。
- 経験の主体:「生活者個人」から「生活者のネットワーク」に拡張
- 経験の対象:「製品やコンテンツそのもの」ではなく、「物と情報が結びついた環境」を経験
- 経験の仕方:「意識的」ではなく、「感覚的」に選択・受容
「生活者のネットワーク」が、「物と情報が結びついた環境」を「感覚的」に選び、受容するようになっている。生活者は、周囲の生活者や物や情報と、常につながりながら物事を経験する。こうした経験により、生活者は「生活者を取り巻く状況」から欲求が生じることになった。
コト提供ビジネスへの転換が必要
欲求が「生活者・物・情報のつながり」に影響を受けて生じるようになった現代において、企業がそれを捕らえるためには、モノを提供するだけでは不十分になる。なぜなら、単にモノを生活者に提供しても、生活者を取り巻く状況において、それが生活者・物・情報とつながりを築けなければ、欲求を満たすことはできないからだ。生活者モードを捕らえるためには、生活者・物・情報のつながり」の中に商品・サービスを入れ込み、つながりを活性化させること、つまり、商品・サービスをコトとして提供することが必要である。
コト提供ビジネスを行っていくためには、3つの問いを設定しなければならない。
①いかに生活者へ価値を提供するか(ex.プラットフォーム)
②いかに収益をあげるか(ex.サブスクリプションモデル、広告モデル)
③いかに継続的に自らを革新し続けるか(ex.オープンイノベーション)
多くの企業は、従来のモノ提供ビジネスを行いながら、その一方でコト提供ビジネスを育てていく必要がある。そのためには、まずはコト提供ビジネスを収益化する仕組みを足場として作った上で、その収益を元にしてコト提供ビジネスを革新し続ける仕組みを作っていくという順序が望ましい。