ネクスト・シェア ポスト資本主義を生み出す「協同」プラットフォーム

発刊
2020年7月31日
ページ数
385ページ
読了目安
623分
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資本主義とは異なる新しい経済のあり方
共同購買や保険、金融などにおいて昔から活用されてきた仕組み「協同組合」の歴史と概念を紹介しながら、協同組合の仕組みをインターネットを介したプラットフォームに活用する可能性を考察する一冊。
GAFAなど巨大プラットフォームが利益を独占する経済に対抗する仕組みとして、新しい協同組合のあり方が書かれています。

企業以外の仕組み

株式会社という事業モデルは、投資家が所有する企業は投資家の利益を誰の利益よりも優先する形にした。現代の真面目なビジネスピープルは、投資家が所有する企業以外の事業モデルはありえないとみなしがちだ。しかし、今普及している事業モデルに先行して別のモデルが存在していた。イギリスでは、1856年に株式会社が法制化される4年前に、協同組合に関する初の法律が成立している。国際協同組合同盟(ICA)の算定によると、大規模協同組合は世界全体で約2兆2000億ドルの売上を上げ、世界の全雇用の10%を生み出している。

 

協同組合は、自分たちが働き、買い物をし、お金を預け、あるいは集まる場となるビジネスを、人々がリスクと報酬を分かち合いながら所有し統治できる。協同組合は社会秩序が変動し、誰にも頼れないことを人々が自力で解決しなければならない時代に定着しやすい。今また、同じことが起きている。

 

協同組合の7原則

ICAが承認し、世界中の協同組合の壁に掲げられている協同組合のルールは次の通り。

  1. 自発的で開かれた組合員制
  2. 組合員による民主的管理
  3. 組合員の経済的参加
  4. 自治と自立
  5. 教育、訓練および広報
  6. 協同組合間協同
  7. コミュニティへの関与

 

協同組合の理念の大動脈は参加と管理だ。事業体の利用者は、その事業体を所有し統治する者でなければならない。事業体はその場にいない投機家のための単なる道具ではない。参加者が所有者であったなら、企業は所有者がそこから引き出せるもの以上の価値を持つようになる。利益以上のものを求める自由がある。

 

投資家の利益を優先するプラットフォーム

かつてモノを製造し、流通させ、販売した産業は、中立性を装った無色透明な「プラットフォーム」という通り名を持つ、新種のビジネスモデルに道を譲った。プラットフォームは余っている部屋を貸したり、ニュースをシェアしたり、仕事をしたりするために人と人をつなげる多面的な市場で、取引から手数料を取り、私たちの利用データから人工知能を手に入れている。プラットフォームは私たちの生活領域にどんどん入り込んできている。

そして、私たちは自分の貴重なデータを引き渡しているのに、何かを無料で得ていると思っている。フェイスブックやグーグルのような普遍的なプラットフォームは、ユーザーのデータを搾り取り、広告主などに販売する。私たちのデータは、私たちの生活の内容を取引しているデータブローカーなどの商売の種にもなっている。私たちユーザーは顧客のつもりでいるかもしれないが、企業の投資家兼所有者からすれば、私たちは労働者であり商品だ。

 

7つの協同組合原則は、実はネット経済の社会契約とところどころ重なり合う。「自発的で開かれた組合員制」はプラットフォームではデフォルトとなっている慣行で、プラットフォームでは通常、誰でもアカウントが作成できる。「自治と自立」は、プラットフォームの所有企業が善意の「コミュニティへの関与」を謳いながら、現地の規制を回避する際に主張する価値観だ。APIプロトコルやWWWコンソーシアムのような規格策定団体を通じた「協同」はプラットフォーム企業で多々行われている。「教育、訓練および広報」の慣行もプラットフォームの周辺で実施されている。

だが、肝心の民主的な統治と所有権は、プラットフォームに欠けている。ネット上のUXの設計は、例えば無料に見えるサービスからどのように収益をひねり出しているのかを不透明にするなど、統治と所有権の問題からユーザーの目をそらすようにできている。

 

プラットフォーム協同組合

画像素材を提供するストックシー・ユナイテッドは、協同組合モデルを新しいプラットフォーム経済に持ち込んだ先駆者だ。彼女らは、あらゆるものを犠牲にして成長を追求するのではなく、新しいメンバーを迎えるタイミングについてマネージャーたちが組合員のフォトグラファーたちに意向を確認しなければならない。公正な支払いと優れた作品が最優先課題だ。ストックシーが数十カ国にいる世界最高レベルのストックアーティストを抱えられ、競争の激しい市場でお金に糸目をつけないクライアントを惹きつけられる理由はそこにある。

 

所有権をネットを介して行うプラットフォーム協同組合はまだ数が少なく、立ち上がったばかりである。プラットフォーム協同組合でまかなう生活は、まだほとんど空想の域を出ない。しかし、今後成功例が出れば、他のプロジェクトも成功しやすくなるだろう。

参考文献・紹介書籍