フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

発刊
2020年7月23日
ページ数
400ページ
読了目安
662分
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フードテックの全体像と最新事例
植物性代替肉・培養肉、レシピとIoT調理家電との融合プラットフォーム「キッチンOS」、店舗を持たないレストラン「ゴーストキッチン」など、現在食の領域で起こっているイノベーションの全体像を紹介している一冊。
欧米を中心に盛り上がっているフードテックの具体例をもとに、これから起こる食の革命を予感させます。

フードテックが注目されている理由

近年、食のシーンにIoTなどのデジタル技術やバイオサイエンスなどを融合させイノベーションを起こすフードテックに、投資活動が活発で、有望なスタートアップが多く誕生している。投資が活発な領域としては、植物性代替肉のような新食材から食料品デリバリーサービスやロボットレストラン、食のパーソナライゼーションにいたるまで様々だ。

 

米国のフードテックイベント「スマートキッチン・サミット(SKS)2017」では、世界のフードテックの市場規模が2025年までに700兆円規模に達すると発表された。現代の食に対して追加でお金を払ってでも解決したい不満を抱えている層は、日本、イタリア、米国で20〜30%程度いる。80億人弱の地球上の人々が、1年間に食事をする回数は約8兆回あり、その1〜2割の回数で仮に追加で100円程度支払うだけで、80兆〜160兆円の市場が生まれる。

 

こうしたフードテックの盛り上がりの背景には、深刻な社会課題がある。世界のフードシステムの年間市場価値は10兆ドル(約1077兆円)。それに対して、フードシステム自体が引き起こしている健康や環境、経済へのマイナスの影響は12兆ドル(約1292兆円)になっている。肥満、栄養失調、汚染や農薬からの健康被害などの健康コスト、気候変動や土壌汚染などの環境コスト、フードロスなどの経済コストにおいて、現代の人間は食べれば食べるほど、傷ついていくという状態にある。

 

フードテックが注目されるもう1つの要因に、生活者の変化による「食の価値の再定義」がある。「効率性」「おいしさ」「利便性」という従来の概念を超えて、現代における食の価値として「発見する喜び」「コミュニティーの育み」「個性の表現」「信頼」「協力」などがある。生活者にモノが行き渡るようになり、個々人が真に求めるライフスタイルを追求する時代になり、人々が食に求める価値は変わってきている。

 

フード・イノベーション・マップ2.0

https://xtrend.nikkei.com/info/18/00006/00064/

 

購買体験の変化

・新しい小売サービス体験:アマゾン・ゴーのような無人レジレス店舗やショールーム型店舗

・デリバリーサービス:ウーバーイーツ、出前館、街の中小飲食店向けの集約型キッチン(ゴーストキッチン)

調理の進化

・キッチンOS(レシピがIoT化した調理家電を制御)

 

これら購買と調理の2つの領域にまたがり、「食べ物」自体の変革がある。植物性代替肉や完全栄養食、医食同源の考えに基づく新しいサービス、レストランをアップデートするフードロボットやシェアダイニングなど、毎日のように新サービスが登場している。

 

代替プロテイン

代表格の1社、米Impossible Foodsの植物性パティは、現在では米国、香港、マカオ、シンガポール含めて15000店以上のレストランで採用されている。同じく植物性プロテインを使ったハンバーガー用パティの製造販売、米Beyond Meatは株式上場し、米マクドナルドや米ケンタッキーフライドチキン、中国スターバックスコーヒーなどで取り扱われ始めている。

 

代替プロテイン市場が盛り上がっているのは、今後の世界人口の増加に対して十分な食肉を供給できないことが予測されているからだ。世界的に見れば、農地の面積をこれ以上増やせない中、狭い養鶏・養豚場内で鶏や豚たちは、ひしめき合うような形で育てられている。できるだけ早く食肉として出荷できるよう、抗生物質やビタミン剤が使われ、品種改良も行われている。こうした切実な環境問題がメディアやセレブリティー、環境活動家による啓蒙活動によって、特にZ世代と呼ばれる若年層に大きな影響を与えている。

これまでにもベジタリアン向けのベジバーガーは存在していたが、肉好きの層には全く見向きもされないものだった。ところが、ついに植物性代替肉が本物の肉と同等あるいはそれを超える価値を提供できる時代が到来した。

 

キッチンOS

キッチンOSは、調理家電がIoT化してくると同時に出てきた概念だ。料理レシピやそれに応じた調理コマンドなど、キッチン関連のアプリケーションが幅広く動くデータ基盤を指している。例えば、これによってスマートフォンのアプリにあるレシピを、調理家電に読み込ませ、指示通りに動かすことができる。

膨大なレシピデータをもとにキッチン家電と連動したり、小売店での買い物対面を変えたりと、これまで分断されてきた「買い物」「レシピ」「調理」という一連の行動をデータでつなぎ、食領域のDXを進めるプラットフォーマーが欧米で勃興している。