人間さまお断り 人工知能時代の経済と労働の手引き

発刊
2016年8月11日
ページ数
272ページ
読了目安
440分
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人工知能による社会の未来予想図
人工知能技術の進歩によって、大失業時代がやってくる。人工知能が人間の仕事を全て代替するようになる社会では、どのような問題が生じるのか。我々はどのように対応していくべきなのか。スタンフォードのAI研究の第一人者による人工知能社会の未来図。

人工知能社会は失業と所得格差問題を拡大する

50年の歳月と何十億もの資金を費やして研究してきた結果、人工知能の「暗号」は解明されつつある。加速するコンピュータ技術の進歩に背中を押されて、ロボット工学、認知科学、機械学習の分野も近年大きく前進している。そのおかげで、人間の能力に勝るとも劣らない新世代のシステムが誕生しつつある。これがこのまま進めば、やがて未曾有の繁栄と余暇の新時代が開けるだろうが、その移行には長い年月と多大な辛苦を伴う恐れがある。経済システムや法制を適切に修正していかないと、長期にわたる社会的混乱が起こりかねないからだ。

その予兆はいたるところにある。現代先進諸国の二大害悪、失業問題と所得格差の問題は、経済成長が続いている時ですら社会を苦しめている。放っておけば、やがてあっと驚く光景が現出することになるだろう。貧困が世界を覆い尽くす一方で、その背景幕をなす社会はあくまでも豊かに快適になっていく。

未来は資本と人の闘争になる

人工知能の研究は二正面作戦で進んでいる。第1種の新型人工知能システムは、経験から学習する能力を備えている。凄まじい速度で山のような実例を精査して、そこから教訓を引き出すことができる。データが蓄積されていくにつれ、人工知能システムはそこにパターンを見出し、人間には理解しようもない洞察に至る。第2種の新型システムは、視覚と聴覚と触覚を備え、周囲の環境に働きかけることができるシステムだ。1つにまとまっていれば「ロボット」と認識されるものになるが、全てが単一の物理的形状にまとまっている必要はない。

この2種類のシステム「合成頭脳」と「労働機械」を組み合わせれば、高度な知識や技能の必要な仕事を物理的に実行できる。自動車を修理したり、外科手術をしたり、豪華な料理を作ったりできる。このような進歩発展によって、原理的には人はきつい仕事から解放されることになる。

今日存在する職業のかなりの部分が、ブルーカラーは労働機械によって、ホワイトカラーは合成頭脳によって、まもなく消滅の危機に瀕することになるだろう。驚くほど多種多様な生産活動が、肉体的と頭脳的とを問わず、新しいデバイスやプログラムによって代行される日がやってくる。産業の自動化が進むと、資本さえあれば人の労働力は不要になる。

未来に起こるのは資産と人との闘争だ。人の創造物によって蓄積された資源は、建設的な目的には使われず、生産的な用途にも当てられないからだ。いわゆる1%の富裕層は、現在のこの趨勢から恩恵を受けているかもしれない。しかし、誰が資産を所有するかについて慎重な予防措置を取らなかったら、1%が0%に縮小する危険が間違いなく存在する。

人工知能に経済を乗っ取られる

AI技術をたった1つ応用するだけで、何もかもが変わる。自動運転車だけで、交通事故が減り、駐車場の土地転用が可能になる上、環境汚染は大幅に軽減される。世界は今よりはるかに豊かで安全で健康的な場所になる。これ以外にも、これから登場する技術は数え切れないほどあって、その1つ1つがこれと同じぐらいの影響を与える可能性がある。人類の未来はバラ色だが、但しそれは、その富を公平に分配する方法を確立できればの話である。

今後、十分に能力のある合成頭脳が、様々な実際的・経済的な理由で方の前に「人工人格」と認められるというのは大いにありうる。しかし、この道を進むのは危険だ。長期的には、それによって人間社会に破滅的な影響が及ぶ恐れがある。特に危険なのが、契約を結ぶ権利と資産を所有する権利だ。

ロボットによるハルマゲドンは実際には軍事衝突問いう形で起こることはないだろう。機械は反乱を起こしたり、人類の支配に武器をとって立ち向かったりはしない。こっそりじわじわと経済が乗っ取られていくのだ。