寿司修行3カ月でミシュランに載った理由

発刊
2016年12月13日
ページ数
219ページ
読了目安
199分
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推薦者

寿司職人には長い下積みはいらないのか
短期間で寿司職人を育成する料理人学校「飲食人大学」を運営する著者が、人気店の作り方と料理人育成の考え方を紹介している一冊。

寿司修行たった3ヶ月でミシュラン掲載

たった3ヶ月の修行を、寿司職人を養成する学校の講座で積んだだけの人たちで運営する「鮨 千陽」が、オープン11ヶ月目にして『ミシュランガイド』に掲載された。この店で寿司を握る職人たちはつい半年、1年前までは、全く別の仕事に就いていた。彼らは、この3ヶ月で寿司職人を育てる専門学校飲食人大学で技術を学んだだけで、どこかのお店に勤めた経験は皆無である。

しかし、これは決して偶然だけが重なった訳ではない。ミシュランに掲載されるための仮設をいくつも方程式のように意図的に連ねて、答えが導かれたという側面がある。

長期間の寿司修行は必要ない

これまでの寿司修行の常識に対する疑問と批判に対しては、長い下積みが本当に必要なのか否かというテーマで議論がある。下積みが大事という意見の中には「飯炊き3年、握り8年はそれだけ場数を踏まないといけないことを表したもの。どんな仕事も教わってできることと場数を踏むことで得るものがある」といった類のものが多く見受けられる。

「場数を踏むことで得る」という考え方に対しては、高級寿司店より圧倒的な数を握らなくてはいけない回転寿司店で仕事をする方が握りの技術に関してだけいえば上達する可能性は間違いなくある。

下積みによって得られるものは「忍耐力」である。しかし、下積み10年に耐えた忍耐力、精神力が寿司の味を左右することはありえない。一人前になるのに実際は10年もかかる店はそんなにはない。平均すれば4、5年だが、寿司をちゃんと握る技術や魚の目利きの仕方を習得するには、実際にそれだけの長い歳月は必要ない。

なぜ、ミシュランに掲載されたのか

ミシュランが掲載してくれた理由は、やはりリーズナブルな値段で新鮮なネタを使った手間のかかった美味しい寿司を提供している点が評価されたこと。寿司のスタイルは関西では珍しい江戸前寿司で、当時のメニュー構成は3500円のコース(前菜3種、お造り2種、握り9貫、留椀)の1種類。江戸前寿司は、手がかかり、職人の技が味を大きく左右する通好みの寿司である。しかも江戸前のスタイルに稀少性がある大阪でやれば一層強い引きになる。その狙いが当たった。

ただミシュランが評価してくれたのはプラスαの部分がある。店づくりから、ミシュランに掲載してもらう可能性を高めるために立てた仮説は以下の通り。

①店舗は小型店であること
②店内の内装はシンプル、派手ではなく清潔であること
③メニューは多くしないこと
④食器、カトラリー、店内設えはシンプルでありながら一流の上質な物を使うこと
⑤広告を一切出さないこと
⑥上質でこだわりのある食材、調味料、希少性のある飲料を使うこと
⑦仕込み、調理に手間を惜しまず料理を創ること
⑧接客は大人しく、さりげなく、細部まで心遣いを行うこと
⑨清潔感へのこだわりを細部まで持ち、清掃は徹底して注力すること
⑩美味しさに驚きを付け加えること

これらをオープン時からずっと、細部までに徹底して妥協せずにやりきった。オープン直後は、1週間に来店されるお客様が1、2名程度だったが、そんな時でも広告は一切出さなかった。今では予約が取りにくい店と言われるが、ミシュラン掲載前からすでに予約が取りづらい人気店になっていた。