知能はもっと上げられる 脳力アップ、なにが本当に効く方法か

発刊
2016年3月28日
ページ数
360ページ
読了目安
500分
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知能は鍛えられるのか
従来、人間の知能は上げられないと考えられてきた。しかし近年、様々な研究によって、人間の知能は短期間で鍛えることができるという結果が示されている。著者自らが脳を鍛えるトレーニングに挑みながら、近年の知能研究を紹介している一冊。

知能は上げられる

2008年の時点でも知能研究分野では、人間の知能は複雑すぎる上に、脳の生来的な性質と密接に結びついているため、どんなトレーニングをしても大きく変化させる事はできないという考え方が主流だった。確かに豊かな環境に子供を置く事で能力を発揮する機会が増大するのは確かだが、劇的に向上する訳ではないとされてきた。

この問題について、100年間で初めて新しい答えが現れた。スーザン・ヤーキとマーティン・ブッシュクールという2人のスイス人研究者が「Nバック課題」というコンピューターゲームを使って、流動性知能はトレーニングによって鍛えられるという研究結果を発表をした。

流動性知能とは、学習したり、新しい問題を解いたり、パターンを見つけたり、教えられていない事を理解したりするための基本となる能力だ。この能力は大学生くらいの青年期に最高潮に達し、少しずつ衰えると考えられてきた。

流動性知能は鍛えられる

ヤーキとブッシュクールの研究が発表された後、ランダム化比較対照試験を行い、認知トレーニングの効果はなかったとする研究が4つ発表されている。一方、認知トレーニングにより知的能力が大幅に向上する事が示されたものは75件もあった。それらの内22件は、特に流動性知能や推論の能力が向上している事を指摘し、残り53件では注意力、実行機能、作業記憶、リーディング能力等で、大きな効果が見られた。その効果は小学生ばかりでなく、中高年、高齢者でも見られる。健康な被験者はもちろん、ダウン症、統合失調症、外傷性能損傷、パーキンソン病等の患者でも向上が認められている。

現在、知能研究分野の研究者の大半は、流動性知能を目の色のように一生変えられないものではなく、筋力のようなものと考えるようになっている。

脳の大きさが知能に与える影響はごくわずか

長年の研究で、脳の大きさと知能の間には関連があるが、それはごくわずかだという説が定着している。実のところ人の流動性知能の約6.7%は「灰白質」、脳の全体的なニューロンの量で決まる。さらに流動性知能の5%は左外側前頭前皮質の大きさに左右される。この部位は作業記憶のテストをしている時、おおいに活性化する。

こうした小さな脳の部位がどのような意味を持つかがわかると、平均で男性より10%脳が小さい女性の知能が、男性とほぼ同じである理由も理解できる。女性は男性より灰白質が多い一方、男性は白質が女性より多い傾向がある。男性は一般的に空間視覚テストの成績が女性を上回り、女性は発話流暢性と長期記憶で男性を上回る。

大きさよりも重要なのは、脳の部位の働きとそれらが互いにどう連絡しているかだとわかってきた。左外側前頭前皮質の大きさと流動性知能の関わりは約5%だが、他の部位とのつながりの強さとの関わりは約10%だ。他のどの要素よりも高い。

遺伝子がIQに及ぼす影響は1%程度

重要なのは、単独の遺伝子が、IQに直接的な影響を及ぼす事が示されているといっても、その差はせいぜい1%だと頭に留めておく事だ。家族、双生児、養子を対象にした多くの研究では、生物学的な親の知能が子供の知的能力に与える影響は50%だと示唆されている。わずかな遺伝子によってそうした差が生じるというのは、現在では単純すぎるとみなされている。遺伝子も組み合わされる事によって、知能のようま複雑なものまでつくる事ができるのだ。