スタートアップ大国イスラエルの秘密

発刊
2017年1月26日
ページ数
198ページ
読了目安
191分
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推薦者

中東のシリコンバレーの秘密
数多くのベンチャー企業が生まれ、投資が次々に集まる国イスラエルの仕組みを解説している一冊。

国をあげて人材育成を行う国

「中東のシリコンバレー」と評されるイスラエルには、現在スタートアップ企業が6000社程度存在する。四国くらいの面積の国土しかない上に半分程度は砂漠で、残り半分の地域にはグローバル企業、スタートアップ企業が密集している。砂漠の真ん中にあるイスラエルだが、石油などの天然資源はほとんど出ない。歴史的には四度の中東戦争を経験し、隣国との緊張関係が続く。貿易による外貨獲得は期待できないため、自国の産業を強化し、付加価値が高い産業を創出する必要性があった。

彼らが教育の中でも特に重要視しているのは、「現在に適応すること」である。より実践的な教育にフォーカスしている。イスラエルの教育プログラムでは、10歳またはそれ以下の年齢から基礎的なプログラミング教育が始まる。12歳からソフトウェア開発やサイバーセキュリティの教育が始まり、15歳までの義務教育後にはより実戦的な内容を選択できる。こうして高校を卒業する18歳までに、世界で渡り合えるレベルの人材が誕生する。
イスラエルには、優秀な人材スカウティングのプロセスがあり、スカウトされた人間は軍に入ってからさらにR&Dセンターで特訓を受ける。兵役が終わる22、23歳頃には、世界レベルの技術力を有する状態になる。

グローバル企業のR&Dが起業家を循環させる

イスラエルはその歴史的な背景から、周りを敵対する国に囲まれている上に、自国内で石油などの資源が出ない。そのため外貨を稼ぐ手段として、頭脳を強化して、R&Dに特化した国づくりを進めてきた。そのため、スタートアップがたくさんあるだけでなく、グローバルに展開するテクノロジー企業の研究・開発期間が300拠点以上存在する。

多くのグローバル企業が拠点を構える最大の要因は、高スペックの若い人材を確保できる点にある。さらにイスラエルには、新しい技術、発明の出所として実績が数多くある。そのため、研究、技術開発のアイデアが豊富に出てくる土壌がある。

こうしたグローバル企業が多数あることは、イスラエル人材にとって多くのプラス効果をもたらす。1つ目は、徴兵後すぐにグローバル企業の最前線の研究・開発に触れることができ、イスラエルの人材の研究・開発能力をさらに高めることができる。2つ目は、こうした企業の大半は世界展開しているので、最初から世界展開を考えて研究・開発するようになり、グローバルな視野でモノを考えられるようになる。将来、起業する際にも、世界展開を考えてプロダクト開発をしやすくなる。

イスラエルで「成功した起業家」は、起業した会社をグローバル企業に売却したり、IPOしていく。一方で、イスラエルでは毎年800〜1000社のスタートアップが生まれるが、その内3〜4割は企業活動を終了していく。「失敗した起業家」たちは、その後グローバル企業のR&Dに容易に戻ることができる。グローバル企業が「失敗した起業家」の受け皿として機能し、人材の需給面で支え、人材の流動性の高さを支える。起業に失敗してもまたグローバル企業のR&Dで働ける環境が整っているため、リスクがあっても起業しやすい。

投資が集まる仕組み

イスラエルには、世界各国から投資が行われている。投資金額は、2015年には5000億円を超える。2010年以降は500〜700社程度に投資されている。これほどの投資が集まり続ける理由の1つは、国内の多数の投資先が存在し続けることが挙げられる。イスラエルの場合、毎年800〜1000社以上の企業が新たに生まれるため、新しい投資対象が増え続ける環境にある。もう1つの理由は、投資した会社が次々にイグジットされていく点だ。毎年80〜100社程度の企業が買収されていく。投資家にしっかりと投資資金が還流していく仕組みができあがっているのである。

こうしたイグジット金額の十数%は税金として国に納められる。教育や徴兵制、グローバル企業の拠点誘致、投資の優遇税制などのインフラを整えた国へお金が還流していく。こうしたエコシステムが構築されている点がスタートアップ大国イスラエルの本質である。