アフターデジタルという考え方
オンラインがオフラインに浸透すると「純粋なオフライン」という状況がどんどん少なくなる。ウェブサイト、アプリ、SNSなどの純粋なオンライン接点、モバイルやIoTを活用したリアル融合型のオンライン接点が多くなり、オンラインとつながらない純粋なオフラインの顧客接点が少なくなる。
日本のDX(デジタルトランスフォーメーション)は、「リアルを中心に据えて、デジタルを付加価値と捉える」という「ビフォアデジタル」的な考え方に根ざしている例がほとんどである。「店舗でいつも会えるお客様が、たまにアプリを使ってくれる」といったイメージである。このリアルとデジタルの接点の主従関係を逆転させて考える必要があるというのが、「アフターデジタル」というコンセプトになる。
アフターデジタルの大きな影響は「属性データの時代から行動データの時代になること」である。行動データが取れると「最適なタイミングに、最適なコンテンツを、最適なコミュニケーション方法で提供できる」ようになる。行動データの時代では、人は「状況」単位で捉えることができるようになり、人間の自己認識や社会における人の在り方にこれまで以上に近くことができる。
体験型ビジネス × 行動データ
行動データの活用において重要なことは「接点頻度」である。例えば、自動車は数年に1度しか買い替えず、顧客との接点もそこでしか得られないとすると、「最適なタイミング」はわからない。最適なタイミングで、コンテンツ、コミュニケーションを捉えて価値提供するには、ユーザーの置かれた状況を把握して、それに対する解決策や便益を提供し、ユーザーと定常的な接点をなるべく高頻度に持つ必要がある。これは商品販売型のビジネスでは実現が難しく、「体験提供型ビジネス」に優位性が移行していくことを示している。
体験提供型ビジネスをOMO(オンラインとオフラインの融合)の思考法で運営し、エクスペリエンス×行動データのループを回す新たなビジネスモデルを「バリュージャーニー」と呼ぶ。これからは「製品はあくまで顧客との接点の1つ」と考え、他の接点である、アプリ、店舗、イベント、コールセンターなどと等しく扱われるようになる。ビジネスモデルは、すべての接点が1つのコンセプトでまとめ上げられ、その世界観を体現したジャーニーに顧客が乗り続け、企業は顧客に寄り添い続ける、そうした新しいバリュージャーニー型に変化する。このモデルでは、製品販売がゴールではなく、「顧客が成功すること」がゴールになる。
顧客との関係性を作っていく事例には以下のものがある。
・「鍵を渡してからが仕事」の自動車メーカーNIO
電気自動車を販売後、その会員に「充電デリバリー」「メンテナンス」「会員制ラウンジ」等をアプリを通じて提供。
・電動バイクメーカーNIU
蓄電池を持ち運べる電動バイクを提供。盗難防止のため、バイクと蓄電池の位置情報をアプリで提供したり、スマートフォンを蓄電池で充電できる製品を提供。バイクのカスタマイズや改造が可能で、SNS機能を通じてユーザー間でコミュニティを形成。
・若者向け賃貸サービス自如(ズールー)
ルームシェアの家賃を同居する全員が別々に支払える仕組みを提供。部屋探しから定期的な清掃、家具の修理なサービス、空き部屋を安い宿として提供するサービス、マンション内のイベント共有などをアプリで提供。
「売ること」「成約させること」にフォーカスするのではなく、顧客にずっと寄り添うことを重視することで、他社を圧倒し、人が人を連れてくるというモデルが、多方面に成立し始めている。サービスの利便性や世界観が優位性を持ち、商品の勾配がサービスのジャーニーの中に埋め込まれていく状態が進んでいる。