愛と怒りの行動経済学 賢い人は感情で決める

発刊
2017年3月23日
ページ数
312ページ
読了目安
505分
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感情に従うことは合理的なのか
感情には合理的な側面もあり、感情に従って行動することには合理的である。行動経済学者が、感情と論理の関係についての研究成果を紹介しています。

感情と知性は支え合っている

意思決定とは、2つの相反するメカニズムが激しく争う過程だと思われがちだ。つまり、我々の中の感情的で衝動的なメカニズムが「誤った」選択をさせようとする一方で、やはり我々に備わっている合理的で知的なメカニズムが苦労しつつも最後には正しい選択へと導いてくれる過程だと思われている。20、30年前までは多くの科学者もこのような見方をしていたが、単純化しすぎているし、間違ってもいる。

我々の感情のメカニズムと知性のメカニズムは協力し合い、支え合っている。そもそも2つを区別できない時もある。感情や直感に基づく決定は、考えられる結果や影響を綿密に分析してから出した決定よりも、ずっと効率的で優れている場合が多い。

感情は合理的な側面を持っている

感情は、我々の意思決定を助けるメカニズムである。それは進化の過程で、生き延びる可能性を高めるために生み出され、適応、発展してきた。例えば、他人に怒りを感じる能力がなければ、たやすく食い物にされてしまい、乏しい資源を巡って争う能力も弱まるはずだ。

人類は感情のメカニズムに加え、意思決定を助けるもう1つの重要なメカニズムも授けられている。合理的分析を行う能力である。しかし、感情のメカニズムによる素早い反応の方が、理性のメカニズムよるゆっくりとした熟慮より、効率的なこともある。

恐怖、悲しみ、後悔といった感情は自律的感情として定義できるのに対し、怒り、妬み、憎しみ、共感といった感情は社会的感情である。社会的感情は、他者との関係を前提とする。自律的感情と社会的感情を区別することは、「合理的感情」という概念を理解する時に重要になる。自律的感情は我々自身の決定に影響を与えるが、社会的感情は自分の決定にも他人の決定にも影響を与える。ここから、感情という枠組みの中で最も重要な要素が見えてくる。自分と他人に対して、確約(コミットメント)を作り出す感情の能力である。

コミットメントの概念は、2人の個人が対立する状況において、一方が他方に対して、ある結果をあくまでも追求すると信じ込ませることができれば、優位に立てるという発見に端を発している。コミットメントの鉄則として、コミットメントを行う側は必要な犠牲を払う覚悟を決めていなければならない。宣言するだけでは不十分である。本物のコミットメントのように見せかけるのは難しい。たやすく騙すことができれば、脅威はありふれたものになって、誰も真剣に受け止めなくなる。

我々にとっては、日々の様々な対立において交渉上の強みを得るために、感情が貴重な手段になる。例えば、怒りをあらわにすることで、たとえ自分が損をしようとも、不当な扱いや無礼な扱いをされたら拳で応えるといった強硬な対応をとるのも辞さないと示せる。我々がどこまでも合理的だったら、敵対者を躊躇させることは簡単でなくなる。

感情的反応のすべてが合理的根拠を持っているわけではない。多くの場合、感情は我々に害を及ぼす恐れがあり、意識せずとも感情を戦略的に利用する能力は、人間の優れた特徴になっている。合理的感情やコミットメントを戦術として利用するのは、取引や交渉の現場では当たり前になっている。交渉スキルは人によって差がある。その差は得てして、合理的感情を生み出してコントロールする能力や、他人の合理的感情を見極める能力の違いから生まれる。

合理的感情の効果は相手がその感情を認識できるかに大きく左右される。重要なのは、たとえ戦略的な理由からであっても、我々は状況次第で意図的に本物の感情を呼び起こせることである。