貴重な情報を収集するテクニック
新たな協力者を獲得するためにスパイが駆使する「SADRサイクル」(諜報サイクル)は、4つの段階で構成されている。
- 狙いを定める(Spotting)
- 評価する(Assessing)
- 人間関係を築く(Developing)
- 勧誘する(Recruiting)
諜報の世界でのSADRサイクルでは、まずミッションの計画を立て、それから適切なターゲットに狙いを定め、ターゲットと接触する方策を固め、その人物と親しくなり、「大義のためにこちらの協力者にならないか」と勧誘する。その後、ターゲットから貴重な情報を得るまでには数ヶ月を要するし、数年かかる場合もある。
それでも、このサイクルは世界各地の諜報員に活用されており、米国政府もこのサイクルを利用して情報を収集し、計画立案や意思決定のプロセスで活用し、テロなどの脅威から国を守っている。
ビジネスにおいても、SADRサイクルを利用して、貴重な情報を収集すれば、とてつもなく大きな成果をあげられるようになる。
狙いを定める:ターゲットの心を読み、近く
①ターゲットにする人の基準をつくる
どんなタイプの人たちと知り合う必要があるのかを検討する。
②接触する場所を見極める
事前に下調べをして、目指す相手と知り合えそうな場所の目星をつけておけば、時間と労力を節約できる。
③「ベースライン」を把握する
スパイは何時間もトレーニングを重ね、周囲の状況のあらゆる細部を観察する手法を覚えていく。最初の内は、周囲で起こっている活動全般に注意を向ける訓練をする。諜報の世界では、これを「ベースライン」と呼ぶ。その場の状況で「ごく普通」や「標準」に思えることに細心の注意を払う。
④少しの「違い」を見つける
スパイは物事を深いレベルまで観察する訓練を受けている。詳細を積み重ねていくと、真の全体像が見えてくる。物事の関連性に気づけるようになればなるほど、力を貸してくれそうな人物を見つけやすくなる。
⑤あえて知人を介して紹介してもらう
スパイの世界では、仲介者を通じて、目指す相手を紹介してもらうのは、様々な作戦において欠かせない手法となっている。まずはターゲットの知人と知り合いになり、それから当人を紹介してもらう方がはるかに安全だからだ。
評価する:情報を素早く引き出し、見極める
スパイは相手から情報を引き出すことを目的にした会話の進め方について、何時間もかけて訓練を受けている。
・スパイの情報を聞き出す技術
- お世辞を言う
- 双方が関心を持っている話をする
- 質問で会話を始める
- 無知なふりをする
・砂時計会話術
まずはごく普通の世間話で会話を始め、それから少しずつ特定の話題へと絞り込んでいき、また世間話に戻す。すると相手を警戒させずに、重大な情報を素早く引き出すことができる。人は会話の最初と最後の話題を覚えている。しかし、その間の会話はあまり覚えていない。そこでスパイは、会話の真ん中あたりで、探りを入れる質問を投げかける。
人間関係を築く:コネではなく、協力関係を築く
諜報員が相手と信頼関係を築こうとする際、よく使う手法には2つある。
①マッチング:相手の話し方を真似る。
②ミラーリング:相手の振る舞いを真似る。
人は大抵、自分と似ている相手と一緒にいると居心地のよさを覚える。共通点が多い相手と一緒にいると、気が楽で、快適に過ごせる。自分と似た相手を好きになるのは人間に生来そなわっている性質である。だから、望みの相手と協力関係を築きたい時には、この人間の本質を利用する。
諜報の世界では、相手から適切な情報を引き出す話術を身につけるのは必須だが、相手のことをよく理解するには、言葉だけを重視してはならない。
勧誘する:タイミングを逃さない
諜報の世界では、ターゲットがどれくらい乗り気になっているかの推測を誤ると、作戦全体が失敗に終わりかねない。相手に何かを受け入れさせる瞬間を見極めるには、相手が示すサインに気づく必要がある。
①決して急がない
②ボディーランゲージに注意を払う
こちらのオファーを受け入れるサインは次の通り。
- 心からの笑みを浮かべる
- 話を聞き漏らすまいと身を乗り出す
- 軽く触れる
- 腕を横に広げている
③相手が売り込んでくるかどうか見極める
相手が売り込みをかけているサインは次の通り。
- 自分の強みについて話し始める
- 自分が貢献できる点を説明する
- 自分の能力を保証する
- 自分のスキルや専門知識がどれほど有益かを力説する