ヘーゲルの弁証法とは
弁証法とは、ソクラテスの時代に生まれ、19世紀にドイツの哲学者ヘーゲルによって再発見された「認識の方法」である。ドイツの経済学者カール・マルクスは、ヘーゲルの仕事を「ヘーゲルの弁証法」として、さらに定式化した。
ヘーゲルの弁証法は、「異質な2つの要素を統合させる」というのが根幹である。ある物事や考え方をテーゼ(命題)として、そこに異質なアンチテーゼ(対立するもの)を掛け合わせることで、より高次なもの(ジンテーゼ)を生み出す考え方である。
弁証法の考え方をホットドックで例えた場合、以下の通りとなる。
テーゼ(正) :ソーセージ
アンチテーゼ(反):パン
ジンテーゼ(合) :ホットドック
ソーセージ(テーゼ)とパン(アンチテーゼ)を別々に食べるのではなく、組み合わせることでさらに新たな価値が生まれて、ホットドック(ジンテーゼ)という高次元の食べ物が生まれる。このように異なる要素をぶつけ合って、より高い次元に上がるプロセスを「アウフヘーベン」と言う。
ヘーゲルの弁証法は、ここからさらに発展させられるところが使い勝手が良い。ホットドック(ジンテーゼ)をテーゼとして、今度は異質なコカコーラ(アンチテーゼ)を組み合わせるとホットドックセットという新しいジンテーゼが生まれる。
ヘーゲルの弁証法は、様々な角度から答えを導き出すことができ、なおかつ続いていくというのが大切なポイントである。構造主義から生まれたロジカル・シンキングからは跳躍した発想は生まれにくい。しかし、弁証法では、単にテーゼとアンチテーゼを掛け合わせるのではなく、そこから高次なものにアウフヘーベンさせるという意味で、よりダイナミックな発想が可能になる。
アウフヘーベンとはどういうことか
マルクスの協力者であった思想家エンゲルスは、弁証法には次の3つの法則があるとした。
①量と質の転化
水は一定の熱を加えると気体になる。ある熱量を境に水の「質」が変わる。経済学や経営学では、サービスや商品が社会に普及していくと、あるポイントを超えたところで普及率が劇的に伸びる現象を「クリティカルマス」と呼ぶ。このように量をこなしてみると、続けることで質への転化が起きる。
②対立物の相互浸透
アウフヘーベンする中で、テーゼとアンチテーゼも互いに影響を及ぼし合う。
③否定の否定
問いかけを経て、否定の否定をすることで、アウフヘーベンの手がかりを得て、ジンテーゼに至る。
どのようにアウフヘーベンさせるにも、まずテーゼとアンチテーゼをどのように定めるかが決定的に大切である。そのためには、意味を問うということが必要になる。つまり、テーゼの意味を問い直し、それをどのように転換していくかを考える。
直線は最短じゃない
AとBという2つの地点がある。AからBに一番早く行くにはどのようなコースを辿るといいか。この質問をすると、ほとんどの人は直線が一番早いと答える。
しかし、実際には新幹線や高速道路などCを経由した方が早く地点に着くことがある。Aをテーゼ、Bをジンテーゼと考える。Cという異質な要素アンチテーゼを持ってくることで、アウフヘーベンできる。あえて、Cというアンチテーゼを持ってくるからこそ、ジンテーゼに早く到ることができる。
弁証法的な発想を得るには、立体的な視点を持つことである。まず何か1つだけでもずらす。そこからすべてが変わってくる。大切なのは、何か本筋と半歩離れたことを真剣にやってみることが、後で必ず効いてくる。