個人の妄想や主観からはじまる
イノベーション活動は、一人ひとりの個人の創造からしか生まれない。自分がゼロからつくった会社は、自らが新しいアイデアを生み続けなければ死んでしまう。だから、生き残るために必死でやるし、自分の中から生まれてくる創造のエネルギーがその動力となる。
社内で新規事業に取り組むには、組織の中で個をなくし、外の情報をもとに自分で判断するアウトサイド・インの世界から、個人の妄想や主観を外に出して進むためのインサイド・アウトという別のベクトルが必要である。
既存の組織のイノベーション活動は、この違う動力源で動く新たな世界に対応したマインドセット、すなわちOSをアップデートしないまま進めてしまうプロジェクトが多く、それが失敗を生む根本的な原因になっている。
創造の智慧
①妄想を引き出し、熱を吹き込むイノベーションプロジェクトが形になりそうな筋がいいものかを見分ける1つのポイントは「自分事化」の度合いである。それは「私」を主語にしているか、自分ではない「誰か」を主語にしているかでわかる。
モヤモヤした人を着火させるために有効なのが、仲間の妄想を引き出し、ビジョンをぶつけ合い共有することだ。妄想をうまく引き出すためには、「アプリシエイティブ・インクワイアリー」と呼ばれる問いかけ方法が有効である。
②ともに企む仲間をつくる
最初に必要なのは組織ではなく仲間だ。最初は3〜4人で企みを一緒にするコアとなる仲間をつくり、最終的にプロジェクトに関わる人全員にその熱量と、濃い人間関係を広げていくチームデザインを行うといい。大事なのは初めから誰かのビジョンに乗っかるのではなく、一人ひとりがアイデアを出し合い、それをもとに議論をしていくことであり、初期ではビジョンは仲間から影響を受けて変わってもいい。
③辺境に眠る妄想を発掘する
どんな組織にも、潜在的なイノベーター人材は必ず3〜5%くらいの割合で存在する。イノベーションの世界では、エリート人材ではなく、むしろ比較的優先順位の低く、管理がゆるいマイナーな事業や部署にアサインされたり、出世コースに乗っていない人材に潜在イノベーターのタネが埋もれている可能性が高い。
初期のタネを生むために重要なのは、いかに濃度と熱量をもった燃油層の人を集め、彼らを発火させるかにかかっている。こうした人材を発掘するためには、類は友を呼ぶのたとえ通り、少し目立っている各世代のイノベーターに周囲の仲間を連れてきてもらうのが有効である。
④組織外の仲間から自信をもらう
外の人と共創することには非常に強い効力がある。議論に外の人が加わると、内輪では熱量の小さい会話も、一時的に温度が上がるからだ。外の人はその会社の独自性や社内でいると気がつかない良い点が見えるため、議論を進める中で、自分たちの長所を発見し、自信を持つことができることが少なくない。
⑤場と間をつくり出せ
イノベーション活動の初期段階では、できるだけ多様な人が交じり合う場をつくることから始めるのが近道だ。場を設計する上で一番重要なのは、思ったことを即興でしゃべり、やってみてから考える、というジャズコンボのような空気感をつくることだ。
全く違うことを考えるには、心の余裕(余白)=間が必要である。新規事業は、一見ムダに思える余白や、役に立たないように見える人付き合いなどが創造の源泉となる。