農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦

発刊
2019年10月18日
ページ数
204ページ
読了目安
220分
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新しい農業の可能性とは
高齢化が進み、就農人口が減り続ける農業において、既存の枠組みにとらわれず、新しい取り組みをする10人の事例を紹介している一冊。最新のテクノロジーに取り入れる事例など、これまでの農業のイメージを覆す内容が書かれています。

衰退していく日本の農業

農業就業人口は2000年389万1000人から、2018年175万3000人と半減。この内65歳以上が120万人で、平均年齢は66.8歳。企業人なら定年退職している世代が主力選手として働いている。稼ぎも少なく、時給722円。97%弱の家族経営の農業生産者は、最低賃金以下の時給で働いている。

農業全体の産出額はピークだった1990年11.5兆円から2017年9.2兆円に減少。畜産だけは3.1兆円から3.3兆円に増加しているが、米、野菜、果実は6.8兆円から5兆円に落ち込んでいる。深刻なのは耕作放棄地で42.3万haにのぼり、これは滋賀県の面積に匹敵する。結果として、日本の食料自給率は37%で過去最低を記録した。

これに対して規制緩和による、農業の大規模化や企業参入が行われているが、活性化の起爆剤になるような効果は出ていない。企業参入は3030法人となっているが、農業は収穫まで時間がかかる上に、天候などの不確実要素が多いため、黒字化している企業は少ないと予想される。

「世界一」の落花生で作る究極のピーナッツバター

浜松市西区「杉山ナッツ」。KPMGのニューヨーク本社での勤務から落花生農家に転身を決め、全くの未経験で就農して6年。無農薬、無添加でつくった落花生を使ったピーナッツバターを作っている。1瓶1400円の高級品が毎年完売。

1904年のセントルイス万博で世界一に輝いた遠州の落花生を扱う農家は残っておらず、耕作放棄地となっていた当時の畑に自生していた落花生を、耕作放棄地を借りて栽培。種を蒔いてから収穫するまでの過程は、主にハウツー本とYouTubeを見て学び、実験の繰り返しで生産した。

世界のスターシェフを魅了するハーブ農園

広島空港から車で30分。山の合間に田んぼが広がる中に、国内外の星付きレストランシェフと交流を持つ「梶谷農園」がある。海外からの来客にはスターシェフだけでなく香港の投資家などもいる。

当時は商品の9割を市場に卸していたが、市場関係者が求めるのは安くて安定したものだった。そこでパリにハーブを持っていくことにした。超人気の三ツ星レストラン、アストランスのシェフ、パスカル・バルボに連絡した。厨房で一緒に撮った写真にパスカルの「こんなおいしいハーブは初めて食べた」というコメントを加えて、ポストカードを作った。そして、このカードに梶谷農園の紹介とメッセージを添えて、日本全国のシェフに送付した。その後、名だたる名店が次々と契約し、圧倒的な支持を得た。

世界が注目する京都のレタス工場

LEDなどを使った植物工場は、2009年に農水省と経産省が150億円の補助金をつけたのをきっかけに増え始めた。2011年64ヶ所から7年で183ヶ所に増加。しかし、この内黒字化しているのは17%。人件費や光熱費がネックになっているとみられ、撤退する企業も少なくない。

この厳しい業態の中で、2013年に黒字化に成功したのが、スプレッド。京都で野菜を中心とした生鮮食品の流通販売を手がけるグループの子会社だ。2006年より京都府亀岡市のプラントで日産2.1万株、2018年より世界最大規模の「テクノファームけいはんな」で日産3万株のレタスを生産している。

植物工場の最も大きな経費は人件費だ。全行程の約5割を自動化。栽培する水は90%再利用。野菜のコントロールだけでなく、スタッフの動きも改善に改善を重ね、最少の人数で稼働できるようにした。植物工場の大きな課題の1つは流通網の構築と言われるが、グループ内に青果物流事業があるので、運送費は通常より抑えることができる。無農薬栽培のレタスは評判が広まり、現在は2400店舗に卸している。一般的な採算ラインは歩留まり70%程度だと言われている中で、スプレッドは育てたレタスの97%を出荷している。