弱虫の生きざま 身近な動植物が教えてくれる弱者必勝の戦略

発刊
2020年7月2日
ページ数
312ページ
読了目安
336分
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推薦者

弱くても生き延びる生き物たちの知恵
生物界で「弱者」と見られている生き物は、どのように生き抜いているのか。立場が弱くても、環境や他の生物をうまく利用し、生き延びている生き物たちの習性や能力を紹介しながら、人生や仕事などにも活かせる戦略を書いた一冊。

変化を恐れない

昆虫の特徴的な能力の1つに「変態」がある。変態とは、成長段階に合わせて自身の形態を大きく変化させることで、主に4段階に分けられる。

卵 → 幼虫 → さなぎ → 成虫

 

変態は昆虫以外でも行うが、「さなぎ」の段階は昆虫独特のもの。昆虫が変態するのは、成長ステージに合わせて「自らの形態を最適化している」からと考えられる。生き物の生物学的目的を「子孫を残すこと」と考えると、成虫では「生殖活動をすること」がミッションであり、成虫以前で「無事成虫になること」がミッションとなる。昆虫が成虫になることを「羽化」というが、昆虫の多くは成虫になると翅を持ち、飛ぶことができるようになる。遠距離移動することで、離れたところにいるパートナーと出会うことが可能になる。

 

アゲハチョウは、幼虫初期の時代には白黒で「鳥の糞」のような姿をしているが、さなぎ間近になると美しい緑色のアオムシになる。小さな若齢サイズでは緑色型よりも糞色型の方が鳥の攻撃を受けず、終齢ほどの大きなサイズでは糞色型よりも緑色型の方が攻撃を受けないという。

 

成長段階に応じて自身を変化させなければならないのは、人間社会においても同じ。しかし自身を変化させるのは、言うほど簡単なことではない。完全変態をする昆虫は、一度体を作り変えるために「さなぎ」というステージを経るが、この時は移動ができなくなるので、捕食者に狙われた時のリスクが非常に高い。

昆虫の変態と同様に、人間にとっても生き方や考え方を変えるというのは、大きなコストと負荷を伴う。さらにタイミングの見極めも重要で、タイミングが悪ければ、効果が得られないどころか逆効果になることもある。しかし、リスクがあるとはいえ、自身を変えるべきタイミングにあるのに、ずっと同じままでいたら、それはそれでうまくはいかない。生物界同様、人間社会でも自分のステージに応じた「変態」が必要である。

 

変化はチャンスである

野鳥には「渡り」という習性を持つものがいる。「渡り」とは、季節に応じて繁殖地と越冬地を遠距離移動する行動のことだ。現存する鳥たちの内、約15%が渡りの習性を持つという。時には海を越えて、何千kmもの距離を移動することもある。

 

渡りはリスクを伴う行為でもある。渡りの途中に嵐に遭うことがある。普段出会わない敵に、命を狙われることもある。鳥たちが渡りをする理由は、コストパフォーマンスにあるという。生物は「エネルギー効率」のよいところに分布する。エネルギーは餌を食べることで得られる。少ない労力で多くの餌が得られれば、エネルギー効率はよいことになる。鳥は飛行による長距離移動が可能なので、移動することで効率よくエネルギーを獲得している。自らの力で、よりよい環境に渡っているのである。

 

人間が活動する上でも、環境は大切だ。自分の力がなかなか発揮できない仕事、活かせる機会が与えられない環境もある。そんな時は、自ら環境を変える行動を取るべきだ。人は変化があるほど、成長してできることが増えていく。新しい場所では、餌を見つけるために新しく覚えること、工夫することが必要かもしれない。しかし、もしかしたら新しい森は、前の場所よりもいい環境かもしれない。変化はチャンスでもある。