ベストセラーには特有のパターンがある
ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーリスト入りした作品はたまたま売れたわけではないし、市場は一般に言われるほど予測不能というわけではない。ジャンルにかかわらず、ベストセラーには共通する隠れた特徴がたくさんある。アルゴリズムを利用すれば、出たばかりの本やこれから出る本についても、同じようなベストセラーのDNAを持っているかどうかを調べることができる。
研究してわかったのは、ヒットさせるために大切なのは正しい言葉を正しい順序で並べることである。コンピューター・モデルに原稿を読ませて、数千という特徴を調べさせた結果、ヒットする小説には特有のパターンがある。そして、そこには読者や読書と結びつけて語る価値があることがわかった。
ベストセラーに共通する特徴
①トピック売れる作家は最も大切な30%に1つか2つのトピックしか入れていないのに対し、売れない作家はたくさんの項目を詰め込む傾向がある。40%の時点で、ベストセラー作家は4項目を織り込み、それ以外の作家は平均で6項目を詰め込んでいる。物語の核心をより少ないトピックで伝えるということは、大切なところに集中しているということであり、無駄な話は削ぎ落とされることになる。そこからうかがえるのは、秩序と精密さを重視する作家の姿勢であり、経験の豊富さである。少数のトピックに集中する方が、物語の深みも増すし、話もわかりやすくなり、読者に好まれる。
ベストセラーに最も良く見られるテーマは親密な人間関係で、登場人物の心の交流に焦点をあてたものになる。勝ち組は、結婚、死、税金、テクノロジー、葬儀、銃、医者、仕事、学校、社長、新聞、子供、母親、メディアなど。逆にうまくいかないトピックはセックス、ドラッグ、ロックンロール、タバコ、アルコール、神、苦悩、絶望など。
②プロット
小説であれ、映画であれ、舞台であれ、物語の基本は三幕構成であり、それは古代ギリシアの時代から変わらない。一般的には設定、対立、解決と言われており、ストーリーが盛り上がり、クライマックスに達し、その後収束する、という流れになる。
ベストセラーのプロットラインの形は様々だが、過去30年で最もヒットを飛ばした作品のプロットには、共通して規則正しいリズミカルな鼓動があった。モデルからは、三幕構成で均整の取れたプロットラインが読者を惹きつけること、感情の起伏を綿密に計算して書くことが世界的なヒットにつながるということがわかった。
③文体
テーマやプロットが正しくても、文体への理解がなければヒットは難しい。ベストセラーに限っていえば、日常で使われる言葉を理解することが必要不可欠だということがわかった。I wouldの代わりにI’d、you areの代わりにyou’reを使うことは重要。形容詞と副詞、特に形容詞は使われる頻度が低い。売れる小説は、余計な言葉を含まずに、より短く簡潔な文で成り立っている。余計な従属節で飾り立てる必要もなければ、名詞を3回言い換える必要もない。
④主人公
ベストセラーの主人公は男女問わず、必ず何かを必要としていて、それを表明している。必ず何かを欲しがっていて、読者は主人公が求めているものを知る。needとwantは、ベストセラー小説には欠かせない動詞だ。ベストセラー小説の世界では、登場人物は自らの行為主体性を自覚し、コントロールし、表現する。使われる動詞は迷いがなく、自信が伴っている。行動は物語を動かす。必要に迫られた登場人物は、行動する、旅に出る、そして問題にぶつかる。それにどう対処するかで、読者はそのキャラクターを知る。