「バカ」の研究

発刊
2020年6月25日
ページ数
336ページ
読了目安
455分
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著名な心理学者たちによる「バカとは何か」についての考察
世界的に著名な心理学者たちが、「バカ」とは何かについて、様々な考察を述べている一冊。そもそもバカとは何か、なぜ人はバカな行いをしてしまうのか、様々な観点からバカについて書かれています。

人間は決して合理的な生き物ではない

自分の考えを肯定するものだけを確認して、否定するものを無視することを「確証バイアス」という。実は80%の人が確証バイアスについて知らず、自分にそのようなバイアスがあると感じたことさえないという。答えを間違えた時、私たちは「混乱したから」「動揺したから」と感情のせいにしがちだが、実は確証バイアスのせいである。

 

心理学者ダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーは、研究を行い、私たちが日常的に行なっている直観的思考を「ヒューリスティクス」と命名した。ヒューリスティクスは、論理とは似て非なる思考方法だ。ヒューリスティクスに従えば、ぴったり正確ではなくても、だいたい正しい答えが得られ、普通に暮らす分には特に問題ない。論理的に思考すれば、確かにより正確な答えが得られるが、疲れてヘトヘトになる。

これは「人間は必ずしも最大の利益を求めるわけでも、常に合理的な行動をするわけでもない」という考え方である。私たちは、いつも行き当たりばったりに考えたり判断したりしている。

 

ダニエル・カーネマンは、私たちが「システム1」と「システム2」という二通りの速さで思考していることを証明している。「システム1」はまさに「ヒューリスティクス」だ。自動的に思考する。完全に正確ではないが、その分スピーディーである。目の前の情報をフル活用して、感覚的にさっと意思決定を済ませ、すぐに別の思考に移る。そのため、物事を大ざっぱに捉えたり、誇張したり、なおざりにしたりしがちだ。

一方、「システム2」はパワフルで、正確で、念入りだ。たとえ遅くなっても構わず、じっくり取り組もうとする。唯一の欠点は、「システム1」が必死に働いている内は何もせずにぶらぶらしていること。「システム1」がどうにもならなくなってから、初めて重い腰を上げる。

つまり、私たち人間は合理的な思考はするが、それはごく限られた合理性「限定合理性」に過ぎない。だからこそ、人類はこれまで生き延びてこられた。私たちの祖先が、捕食者や敵に出くわした時、「逃げるべきか」「戦うべきか」と沈思黙考していたら、人類は昔に絶滅していただろう。だから、たとえ時折ミスをしようと「システム1」はなくてはならない思考メカニズムなのである。

 

人間には完璧な論理は備わっていないが、2つの不完全な思考システムを状況に応じて使い分けることで、この複雑で不確かな環境をどうにか生き延びている。つまり、過ちこそが人間である。過ちを犯すからこそ、私たちは人間らしくいられる。

 

認知バイアスとバカ

「バカ」とは、行動、発言、態度を形容するのに使われる形容動詞で、たとえば「軽率」に比べると侮蔑の意味合いがかなり強い。そのため、この単語を他人に対して使う場合、強い戒めの気持ちがこめられる。

「バカ」と「認知バイアス」は異なる。「認知バイアス」は、脳の情報処理と思考における様々な傾向である。脳の情報処理にバイアスがかかることは、決して知性の欠如を意味しない。

 

無知は決して「バカ」ではない。無知は学びの大きな原動力になりうるからだ。但し、そのためには、自分が無知であること、自分が知らないのは何であるかということに、きちんと気づく必要がある。問題は、私たちが自らの「バイアス」や「傾向」に気づけたとしても、なかなかそこから抜け出せないということだ。このことは、自らの考えに疑いを抱きにくい状況においてより顕著である。

 

本物の「バカ」とは、自らの知性に過剰な自信を抱き、決して自分の考えに疑いを抱かない人間のことだ。バカは嘘つきより始末に負えない。嘘つきは真実が何であるかを知っているが、バカは真実には関心がないからだ。バカを撃退するには、相手を告発すること、つまり、相手を「バカ」と命名することが大切である。