美意識の値段

発刊
2020年1月17日
ページ数
208ページ
読了目安
230分
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アートの価値はどのように見極められるのか
世界二大オークション・ハウスの1つである「クリスティーズ」の日本法人社長が、オークション・ハウスで美術品を扱う仕事の内容や、美術品を観る眼の磨き方を紹介している一冊。アートと共にある生活や美意識の価値などについて書かれています。

オークション・ハウスのスペシャリストの仕事

オークション・ハウスの「スペシャリスト」とは、美術品を実際に扱うために専門分野の知識を持ち、その分野の作品の「鑑定」と「査定」ができる者のことである。そこには多種多様な分野が存在する。眼を鍛錬し、眠れる美術品を探し出し、個性溢れる個人コレクターやディーラー(美術商)、美術館等のオークションの顧客たちと渡り合う。素晴らしい美術品を競売にかけるにあたり、オークション・ハウスとして適正な「値付け」をすることも肝要である。

スペシャリストの仕事は多岐にわたるが、最も重要かつエキサイティングな部分は「モノ(美術品)」との出会いである。スペシャリストが眠れる至宝のごとき「モノ」に出会うためには、まずいつでも耳をそばだてて情報を得る。

 

①毎朝必ず新聞を読む(「お悔やみ欄」を含む)

②コレクター達とコンタクトを密に取る(胃が丈夫でなければならない)

③ディーラー達とこれも密なるコンタクトを取る(夜外活動等も含む)

④美術館の学芸員や、学者の先生方とコンタクトを取る(勉強になるので一挙両得)

⑤美術雑誌・研究誌やサイトを隈なく読む

 

一番肝心なことは、以下の3つである。

①日々勉強し十分な専門知識を持つこと。

②人に好かれるタイプになり「遊ぶ」のを厭わないこと。

③他分野の最高級の芸術も日々見聞きし、己の芸術的センスを磨くこと。

 

特にセンスを磨くことは非常に重要で、スペシャリストにとって「専門知識」に勝るとも劣らぬ程重要な、「カン」というものを得るのに欠かせない条件である。

実際スペシャリストは年がら年中「鑑定と査定」をして生活している。しかも「鑑定」とは、美術品を売る際の最も重要かつ最初のステップで、美術品の極めて難しい「真贋」をはっきりさせねばならない。目利きになるには、できるだけ良質の本を読み、とにかく評価の定まった「良い作品だけ」をたくさん観ることだ。「良い作品だけ」を観ていると、だんだんと「悪い作品」がわかってくる。しかし先に「悪い作品」を観てしまうと、良い作品がわからなくなってしまう。

「鑑定」と「査定」とは、脳内記憶に残した100%素晴らしい作品を脳裏に描いて、それを基に引き算をしていくことである。この方法を使うことで、大きな過ちを犯す可能性を大分低く抑えられる。

 

オークション・ハウスの務めとは、1人のコレクターが長い年月をかけて大切に集めた美術品を、そのコレクターの名誉と共に調査研究し、美しい図録に掲載したり下見会を開催したりすることによって、新しい所有者を探して後世に残す、という大事な役割を果たすことである。

 

美術品の値段はどうやって決まるのか?

スペシャリストが作品に値段を付ける際には、以下のポイントがある。

 

①相 場:美術品には、相場があり基準が存在する。

②希少性:査定する作品が非常に珍しい作品だった場合、その相場を元に付加価値を付ける。

③状 態:状態がどれくらい悪いかによって、完品の相場価格から引き算をして行く。

④来 歴:作品が辿ってきた道。資料的価値と共に存在する美術品の「来歴」の有無は、価格に反映する。

全く同じ茶杓だとしても、持っていたのが千利休か名も無き茶人かでは値段が全然違う。

 

一級の美術品はすべて永遠の「現代美術」である

いかなる「古美術」もできた時は当然「現代美術」だったが、今その古美術を観た時に、ハイ・クオリティの現代美術を観ているような「新鮮さ」と「斬新さ」を感じられる作品に限って、古美術品としても一流である。それはその作品を長い年月残してきたオーナーたちの眼がそれを感じてきたからで、一流品の「フレッシュネス」はどれだけの時を経てもなくならない。

同じ意味で、逆に今現代美術を観る際、「この作品が500年後にその新鮮さや斬新さが失われ、古臭く感じられないだろうか?」と考えることも大切である。すなわち「現代美術」は「古美術」になった時にある意味、真の評価が得られるからである。