イスラム2.0 SNSが変えた1400年の宗教観

発刊
2019年11月23日
ページ数
272ページ
読了目安
330分
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イスラム教とは何か
なぜ、イスラム教徒によるテロがなくならないのか。あまり知られていないイスラム教の基本的な考えと、近年増え続けるイスラム原理主義の背景を紹介している一冊。

イスラム教とは

イスラム教は『コーラン』などの啓示を絶対視し、啓示の解釈によって構築された規範体系を有する極めて論理的な宗教である。この宗教の根幹をなす啓示に立脚した学問・規範体系がイスラム法である。

イスラム教の想定する平和は、イスラム教が覇権を握ることによって確立される秩序の下でもたらされる平和のみである。イスラム教徒はイスラム法によって統治される秩序の確立を目指し、彼らが正義だと信じるジハードを実行するが、同じ価値を共有しない私たちにとっては、それはテロ以外の何物でもない。彼らの正義の基準は神であり、神の下した啓示である。イスラム教の論理では、その正義に服従するのが「正しいイスラム教徒」だと規定されている。

イスラム原理主義の台頭

世界の諸現象の中で最も急速に、かつ劇的に変化しているものの1つが、世界に18億人いるとされるイスラム教徒の信仰実践のあり方である。特に注目すべきが、「イスラム国」やアルカイダに代表されるグローバルなジハード・ネットワークの広がりと、インターネット普及に伴う一般のイスラム教徒の原理主義化であ。

・神はこの世をイスラム教徒のために創造した
・イスラム教徒に反対する者は誰であれ殺されるべきである
・ヒンドゥー教徒もキリスト教徒も仏教徒も不信仰者であり、彼らには生存権はあるが、統治権を持つのはイスラム教徒のみ。不信仰者はイスラム教徒の統治を認め忠誠を誓うという条件下でのみ生存を許される

これらはいずれも、イスラム教の啓典『コーラン』やハディース(
預言者ムハンマドの言行録)に立脚した伝統的で正統な教義である。啓示を文字通り解釈し実行すべきだと信じるジハード主義者にとっては、仏教徒もキリスト教徒も同様に攻撃対象である。

イスラム2.0

2000年以降、ジハード主義が世界中で急速に拡大した背景には「イスラム2.0」がある。イスラム教が勃興した7世紀からインターネットが普及するまでの約1400年間にわたり、イスラム教徒たちが搭載してきた「イスラム教についての知識」が、イスラム1.0である。インターネットが一般に普及し検索エンジンやSNS、動画サイトが登場した2000年代初頭から、そのイスラム1.0が2.0へとアップデートしている。

イスラム教徒とは、神を信じ、神の命令に絶対的に服従する人のこと。彼らは日常のあらゆる行為を、神の命令通りに実行するよう義務付けられている。彼らはそうすることによって来世で救済され、天国に入れてもらえると信じている。つまり天国に行くためには、神の命令、神の法が何であるかを知っている必要がある。それらについての知識がイスラム1.0、あるいは2.0である。

イスラム教には聖職者がいない。救済されるためには信徒一人ひとりが神と契約を結び、神の法を知り、それを実践しなければならない。ところが、7世紀から2000年代初頭までは、一般教徒はモスクで聞く説教や近所の法学者への質問を通してイスラム法の知識を得るしかなかった。このイスラム1.0は、必ずしも啓示の文言に忠実な知識ではなかった。この流れを大きく変えたのがインターネットである。これまで知識面で弱者だった一般のイスラム教徒が、インターネットを通じて啓示テキストに簡単にアクセスできるようになったことで、イスラム1.0に異議を唱える人や組織が生み出され始めた。

では、神は信徒に戦争を命じているのか。『コーラン』には「あなたがたには戦争が義務付けられた」とあり、異教徒との戦争が規定されている。