生涯投資家

発刊
2017年6月21日
ページ数
276ページ
読了目安
383分
推薦ポイント 10P
Amazonで購入する

Amazonで購入する

村上ファンドとは何だったのか
ニッポン放送株をめぐるインサイダー取引で、有罪判決を受けた村上ファンドの村上世彰氏の半世紀。その投資哲学や日本の問題点などが語られています。

投資デビュー

子供の頃、預金通帳に印字された数字が増えていくのを見るのが好きだった。父の仕事は投資家だった。いつも「お金は寂しがり屋なんだ。みんなで戯れたいから、どんどん1ヶ所に集まってくるんだよ」と言っていた。そう聞いて子供心に「もっとお金を貯めたら、もっと増やせるんだ」と信じ、できる限り貯金をしていた。

自分で株への投資を始めたのは、小学三年生の時だ。ある日、父が百万円の帯付きの札束を置いて、こう言った。「いつも小遣いちょうだいと言うが、今百万円あげてもいい。但し、これは大学を卒業するまでのお小遣いだ。どうする?」 そこで大学入学までの10年間のお小遣いを一括前払いということで、百万円の現金を手にした。この百万円を元手に、株の投資を始めた。まず半分の50万円でサッポロビールの株を買った。それから毎日、新聞で株価をチェックし、経済面の記事も読むようになった。サッポロビール株は2年ほど持ち、10万円ほどの利益が出た。その後も、元手の百万円は順調に増えていった。

投資哲学は、すべて父から学んだ。「上がり始めたら買え、下がり始めたら売れ」という教訓は、今でも投資の基本になっている。

投資家とは

大学卒業後は通産省に入省した。通産省にいた16年間、日本のあるべき姿について常に考えていた。その中で、日本経済の永続的な成長のためには、コーポレート・ガバナンスが大切であることを実感し、これを自らがプレーヤーとなって変えていこうと決意して、40歳を目前にファンドを立ち上げることにした。

企業が成長のために投資をしたり、投資家が新しい事業に投資をするには、いずれもお金の流れが潤滑であることが大切である。しかし、日本の上場企業には、使う当てのないお金がたくさん蓄えられていた。この「遊休資産」を活用していくことが、企業の価値向上につながるという意味で、株主としてのコーポレート・ガバナンスの重要な課題であり、ライフワークとなっていった。

そもそも投資とは「将来的にリターンを生むであろうという期待をもとに、資金をある対象に入れること」である。投資には必ず何らかのリスクが伴う。しかし、投資案件の中には、リスクとリターンの関係が見合っていないものがある。それを探し、リターン>リスクとなる投資をするのが投資家だ。このリスクとリターンの関係を「期待値」と呼ぶ。期待値が大きくないと、金銭的に投資する意味がない。そこを的確に判断できることが、優れた投資家の条件だ。期待値を的確に判断するためには、数字だけではなく、その投資対象の経営者の資質の見極め、世の中の状況の見極め等、様々な要素が含まれる。

日本の問題点

日本企業のコーポレート・ガバナンスへの対応の遅れは、株式市場の成長において、数字としてはっきり表れている。日本のTOPIX企業の平均PBRは1〜1.3倍なのに対し、米国のS&P500のPBRは3倍弱。これは、同じ規模の純資産を保有する企業であるにもかかわらず、日本企業の価値は株価に反映されていないことを意味している。この評価の差が出るのは、投資家の「期待値の差」であり、投資家への「リターンの差」を意味する。

投資先の企業に対しては、最初にこうヒアリングする。「たくさんの手元キャッシュや利益を生み出していない資産をお持ちのようだが、これらを今後の事業にどのように活用していく計画なのか」

資金を眠らせて世の中への循環を滞らせることこそ、上場企業がもっともしてはならないことだから、必ずこの質問をする。しかし明確で納得のできる回答は、ほとんど得られない。企業価値の向上という視点から納得のできる回答を得られない場合、その次のステップとして3つの提案をする。

①M&Aなどの事業投資を行うことを検討し、中期経営計画などに盛り込んで、きちんと情報開示して欲しい
②この先数年、有効な事業投資が見込めないのであれば、配当や自己株取得などによる株主還元を行うべき
③どちらの選択も行いたくないのなら、MBOなどにより上場をやめるべき