建設業者

発刊
2012年10月1日
ページ数
239ページ
読了目安
263分
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建設業にかかわる職人が語る仕事の流儀
ゼネコンの下請けとして働く職人から、宮大工など伝統的建造物に携わる職人まで、建築にかかわる37人が語った仕事論。職人魂に触れることができる1冊。

鉄骨鳶 湯本春美

単純にこの仕事が好きなんだよね。自分の仕事には誇りってものを持ってるだろう?それを簡単に捨てるわけにはいかないんだよ。俺の場合、学校を卒業して初めて就いた仕事がたまたまゼネコンの鉄骨関係だったって縁もあるけど、それからずーっと鉄一筋。だから、いまさら鉄から離れられないの。

クレーンオペレーター 千葉清和

どんなに悪条件の現場でも社員全員にやり遂げる技術と自信があるから、多少高くても継続して注文を頂けているんです。

鉄骨工 池田章

初めて一棟まるごと任された日から今年で33年になりますけど、建方だけはいまだに緊張します。経験は重ねていても、鉄骨を組み上げる時の気持ちは33年前と全く変わんないです。

非破壊検査 小高正雄

そもそも、われわれ検査員と鉄工所にいる溶接工とは敵同士の関係ですからね。鉄工所内での自主検査は、言ってみれば宴会場のコンパニオンがお酌をしているようなものです。あの手この手でお客さんを嫌な気分にさせないように接していく。そうしないと、次から呼んでもらえなくなっちゃいますからね。でも、そうやってじっくり付き合っていけば、その工場の弱い部分は必ず改善されます。

鳶・土工 井上和之

仕事のやりがいなんて言う人は、そもそもこの世界に入ってこないんじゃないのかなぁ。そんな事考えたら、この仕事はできないですよ。若い人には、こういう仕事をしていても、ちゃんと働いていればちゃんとした生活ができるんだという事を感じてもらうこと。それしかないです。

解体工 村上文朗

解体業と聞くと、荒くれ者が適当にぶっ壊しているイメージなのかもしれませんが、実際にはこれほど気を遣う仕事はない。解体って、敷地をきれいにしてスタートさせる建築の最初の工程になるんです。解体業者のイメージが悪いと、その後の工程に入ってくる職人たち全員のイメージが悪くなる。だから、とにかく近所の人を大事にするんです。

ALC建て込み 小堺恒昭

ALC(軽量気泡コンクリート)の魅力は、やっぱ仕事が残る。これでしょうね。ALCって一度張ったらそのまま外壁になって外から見えるじゃないですか。子供に見せられる仕事っていうんですか。そういうのはやっぱいいもんですよ。

ウレタン吹き付け 大沢大嗣

ウレタンは、その日の気温、現場の階数、延ばしたホースの長さ、吹き付けるスピードなどあらゆる要素を踏まえて発泡機の状態を調整してからでないと、均一に吹く事ができません。ウレタンの吹き付けに関しては、師匠が弟子に教えられる事ってほとんどないんですよ。自分が現場で経験を積んで学んでいくしかない、量をこなす事で質を上げていくしかない。

防水工 古田崇

いまだに防水が天職とは思いませんね。外でやる仕事だから梅雨の時期はどうしても仕事が減るでしょ。「やっぱり内装屋になれば良かったかな」なんて思う日もありますよ。流されるようにして辿り着いた仕事なんでね、今は毎日淡々と続けているだけです。

板金工 下田守広

腕のいい職人は世の中にいっぱいいますよ。ただ危惧しているのは、腕のいい職人達の技術が次の世代にきちんと伝えられていないのではないかという事です。自分の技術を弟子にしっかり伝えている人って、実はものすごく少ないんです。自分はたまたま父の跡を継ぐ形で板金屋になりましたけど、そこには家業を継ぐ以上に、板金の技術をつなぐという意味もあったのかなぁと、近頃思い始めているところです。

給排水設備 小池猛

大工なら100本のうち1本くらい釘を打ち損ねても致命的な問題にはならないでしょう。でも、給排水設備はたった1本の配管をミスしただけでもアウト。天井から水が漏れてきます。施主からは人殺しを見るような顔で睨まれる。ただ、設備屋の唯一のプライドとでもいうのかなぁ、個人的には、我々が1本1本心臓から血管をつないでいくように、建物を血の通ったものにしているんだという思いね。それがあるから、なんとか40年近くこの仕事をやってこれた気がしています。

電気設備 保坂和弘

全部の作業が終わって引渡しの直前が最高の瞬間です。電気の職人って、その家の最初から最後までずっと付き合う唯一の職人なんです。

タイル工 高橋雅雄

職人というのは、常に新しいものを採り入れていく、学んでいくという姿勢も大切です。

左官工 浜名和昭

優秀な職人というのは、必ず2つの共通点を持っています。一つは段取りがいいこと。親方から言われた通りにやる人、これはダメ。臨機応変、その場に応じた発想ができる人じゃないと現場は務まりません。もう一つは下地をきっちり作れること。それ以前に、うまい人というのは仕事に対する欲がありますよ。お金じゃなくて、もっと良くしたい、もっと左官の事を知りたいっていう欲求ね。

塗装工 ロバート・マルティネス

今は住宅の内装が多いので、いかにお施主さんと良好なコミュニケーションが取れるかを大切にしています。お施主さんとは、趣味が合うと誘ったり誘われたりの関係になりますよね、それが後々のメンテナンスの仕事や、横のつながりになって、新しい仕事につながるんです。

什器製作 藤倉英雄

我々職人が作るものは、小さな家具一つであっても、しっかりとした手間と時間がかけられています。これからの職人に必要なのは、自分の仕事を説明していく能力なんです。完成した製品にプラスして「自分はこういうふうに考えて仕事をしているんだ」と説明していく能力ですね。職人が自分の物語を積極的に語っていく。我々にはその責任があると思っています。

家具造作 高橋正宏

結局、自分はどんなにいい仕事をしようと思っていても、現場にいる関係者すべてに受け入れてもらえなければ、思い通りの仕事はできないんです。お施主さん、現場監督さん、大工さん、その他の職人さん、すべての人に気に入って頂けないと、いい仕事は不可能です。

宮大工 金子浩晃

親方から教わった事は、水平と垂直、これですね。水平な土台の上に垂直に柱を立てる。これがすべての基本だと、事あるごとにそう教えられてきました。それは職人の生き方も同じで、真っ平らなところを真っすぐに進んで行くのが一番いいんだと。

宮彫師 渡辺登

結局、職人というのは技術を発揮する場がなければ、いる意味がないんです。なんでもいいからってサイズの合わない既製品をくっつけるんじゃなくて、職人には職人の仕事をしっかりさせないと。たとえ金儲けはできなくても仕事の跡だけはきっちり残しておく。それが職人の技術ってもんですよ。

瓦葺き 岩崎貴夫

専門学校の先生に言われた事で、いまだに覚えている言葉があります。「技術はそこそこやれば誰でも身に付く。もう一歩上を目指すなら、あとは人柄を磨くしかない」。人間的に成長しない人は、職人としても成長できないって事なんでしょうね。