イノベーション・オブ・ライフ ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ

発刊
2012年12月7日
ページ数
264ページ
読了目安
403分
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クリステンセン教授のハーバード・ビジネススクール最終講義
クレイトン・クリステンセンが、企業の戦略理論の事例を人生におけるキャリアや人間関係に役立つツールとして紹介。ハーバード・ビジネススクールで学生達に語った最後の講義がまとめられた自己啓発書。

わたしたちを動かすもの

私たち一人ひとりを動かすものには、誘因(インセンティブ)と動機づけ(モチベーション)という2つの概念がある。

誘因理論は、金銭的報酬の必要性を説き、高騰する役員報酬を擁護する根拠として広く用いられている。理論が提供する助言が信頼できるかどうかを判断するには、アノマリー(その理論で説明できない事象)を探すのが一番である。誘因理論の問題点は、強力なアノマリーが存在することだ。

例えば、慈善団体の職員の報酬は、民間部門の数分の一でしかないが、職員のやる気のなさに困っている話を聞いた事がない。また軍隊にも素晴らしい人材が集まっている。

一方、動機づけ理論は、誘因理論を逆さにしたものである。この理論は衛生要因と動機づけ要因という2種類の要因を区別する。仕事には、少しでも欠けていれば不満につながるという衛生要因がある。ステータス、報酬、職の安定、作業条件、企業方針などがこれにあたる。ここでは報酬は、動機づけ要因ではなく衛生要因に含まれる。衛生要因を改善しても、せいぜい仕事が嫌いでなくなるだけで、仕事を心から好きになれる訳ではない。

機会を求め続けよ

仕事への愛情を生み出す要因は、動機づけ要因と呼ばれるもので、やりがいのある仕事、他者による評価、責任、自己成長などが含まれる。人を動機づけるものを本当の意味で理解すると、キャリアに限らず、様々な状況で物事の本質を見通せるようになる。

本当の幸せを見つける秘訣は、自分にとって有意義だと思える機会を常に求め続けることにある。新しい事を学び、成功を重ね、ますます多くの責任を引き受ける事のできる機会だ。衛生要因は、ある一定水準を超えると、仕事での幸せを生み出す要因ではなく、幸せがもたらす副産物に過ぎなくなる事を忘れてはいけない。これさえ覚えておけば、本当に大切な事に心ゆくまで集中できる。

創発的戦略と意図的戦略

戦略の選択肢は、「予期された機会」と「予期されない機会」2つの全く異なる源から生まれる。前者は前もって予見し、意図的に追求する事ができる機会、後者は意図的な計画や戦略を推進している内に生じる、様々な問題や機会の混じり合ったものを言う。

予期されない問題や機会は、企業に当初の計画に固執するか、それを修正するかという選択を迫る。企業が予期されない機会を追求し、問題を解決する内に下す、日々の様々な決定により形成される戦略を創発的戦略と呼ぶ。こうした戦略形成プロセスは、何度も繰り返され、戦略を変化させていく。厄介で無秩序なプロセスかもしれないが、ほぼすべての企業がこの方式で勝利戦略を生み出している。

私たちは人生やキャリアで、意識していようがいまいが、常に意図的戦略か、創発的に現れる予期されない選択肢のどちらかを選びながら、道を進んでいく。どちらの手法が優れているという事はない。

求める衛生要因と動機づけ要因の両方を与えてくれる仕事が、すでに見つかっているなら、意図的な手法をとるのが理にかなっている。反面、こうしたキャリアが見つかっていない人は、創発的戦略をとる必要がある。つまり、人生で実験せよという事だ。本当にやりたい事が見つかったら、その時が創発的戦略から意図的戦略に移行するタイミングである。

心から実行したい戦略を実行せよ

多くの企業の意思決定システムは、見返りがすぐに形となって現れるような取り組みに投資を促すようにできている。そのため、長期戦略のカギとなる取り組みへの投資がおろそかにされがちになる。こうした資源配分の仕組みは、私たち人生やキャリアでも、同じようなものだ。

企業戦略であれ人生の戦略であれ、戦略は時間や労力、お金をどのように費やすかという、日々の無数の決定を通して生み出される。人生に明確な目的と戦略を持つことは大切だが、自分の持てる資源を、戦略にふさわしい方法で投資しない限り、何にもならない。自分の優先事項に沿った方法で、資源を配分することに心を砕かねばならない。