マイクロソフトの文化
マイクロソフトはパソコン革命を起こし、伝説的な成功を収めた。旧世代の企業でこれに匹敵するのはIBMぐらいだろう。しかし、競争相手を遠く引き離して数年も疾走を続けると、何かが変わってきた。良い方向の変化ではない。革新的な仕事がお役所的な仕事に、共同作業が内部抗争に変わり、競争から落後し始めた。
2014年にマイクロソフトの第3代CEOに指名された時には、この会社の文化を刷新することが自分の最優先事項だと社員に告げた。そして、誰もが入社時に抱いた、世界を変えるという目標に立ち返れるように、イノベーションの障壁となるものを容赦なく取り除くことを誓った。マイクロソフトは、個人の情熱が幅広い目的と結びついている時には、常に最高の状態にあった。Windows、Office、Xbox、Surface、Server、Microsoft Cloudはいずれも、個人や組織が夢を築くためのデジタル・プラットフォームになった。マイクロソフトの文化に望んでいたのは、そのような本能と価値観だった。
マイクロソフトの存在理由は何か
マイクロソフトのそもそものルーツ、当初の存在理由は、誰もがコンピューターを使えるようにすることにあった。「すべてのデスク、すべての家庭に1台のコンピューターを」が元々のミッションであり、それを軸に企業文化が形成されていった。しかし、今や世界は大きく変わり、大抵の職場や家庭にはコンピューターがあり、大半の人がスマートフォンを持つ時代になった。
パソコンの売り上げは鈍化し、モバイルでは大きな後れを取った。ネット検索でも開発が遅れ、ゲームでも伸び悩んでいた。漠然としていてまだ満たされていない顧客ニーズに対して、これまで以上に深く感情移入しなければならない。「リフレッシュ」ボタンを押すべき時期だった。
「マイクロソフトの存在理由は何か? この新たな役職での私の存在理由は何か?」これはあらゆる組織のあらゆる人間が自らに問うべきことだ。
新たなミッション
マイクロソフトは、あらゆる人、あらゆる組織に力強いテクノロジーを提供する企業、テクノロジーを世間一般に広める企業だという魂を取り戻す必要がある。
私たちはもはや、パソコン中心の世界にはいない。コンピューターが至るところに存在する世界、あたり一面に知能が存在する世界に変わろうとしている。これはつまり、コンピューターが周囲を観察し、データを収集し、そこから知見を得られるようになるということだ。生活や仕事どころか、世界のデジタル化がかつてないほど進んでいる。ますますネットワーク化するデバイス、クラウドによる驚くべきコンピューター処理能力、ビッグデータからの知見、機械学習による知能が、それを支えている。これらすべてをまとめて、マイクロソフトは「モバイルファースト、クラウドファースト」にならなければならないと主張した。
私たちが思い描くべき世界とは、デバイスに縛られないモバイルな人間経験が重視され、クラウドがそれを可能にし、新世代の知的経験を生み出す世界である。マイクロソフトがあらゆる事業を通じて展開していく変革は、マイクロソフトやその顧客が、この新たな世界で成長・発展するのを支援するものでなければならない。
マイクロソフトは、人間経験をモバイル(移動可能)なものと捉え、その理念をクラウド・テクノロジーで実現していこうと考えた。このモバイルとクラウドという2つのトレンドが、変革の基盤となった。