経済は3段階で重篤化する
新型コロナウイルスとの闘いはグローバルスケールで長期戦の様相である。他のウイルス性疾患のパンデミックと同様、一定程度の集団免疫の形成とワクチンや抗ウイルス剤の開発と普及で爆発的な感染と重症化をコントロールできる状況になるまでは落ち着かないだろう。
今回の経済危機の深刻化は、リーマンショックとは違う形で、より広い産業と地域を、より長期にわたって巻き込んでいく。時間軸的にはL(ローカル)な経済圏の中堅・中小のサービス業が打撃を受け、次にG(グローバル)な経済圏の世界展開している大企業とその関連の中小下請け企業へと経済収縮の大波が襲っている。この段階での衝撃を受け損ねると、次は金融システムが傷んで今度は金融危機のF(ファイナンシャルクライシス)の大波が起きかねない。
・L(ローカルクライシス)の第一波
今回の危機は感染症リスクに備えるために人々が様々な経済活動を控えることから生じている点で実体経済から始まっている。その分、私たちが受ける影響は直ちに強烈なものになる。まず打撃を受けているのは、観光、宿泊、飲食、エンターテイメント、生活必需品以外の小売、住宅関連などのローカルなサービス産業である。
こうしたL型産業群はGDPの約7割を占める。しかもその多くが中堅・中小企業によって担われており、非正規社員やフリーターの多い産業である。日本の勤労者の約8割は中小企業の従業員または非正規雇用が占めており、L型産業の危機は多くの企業や労働者を厳しい状況に追い込む。
・G(グローバルクライシス)の第二波
自動車や電機などのグローバル大企業の領域で、本当に怖いのはこれからやってくる急激な消費停滞による需要消滅、売上消滅のショックである。リーマンショックの時も真っ先に消えた需要は、耐久消費財とその関連設備投資や部品供給、材料供給の需要だった。将来に不安を持った時、人はわざわざ高価な耐久消費財は買わない。自動車、住宅関連、電気製品、衣料品という順番で買い控えが起きるだろう。
トヨタのような超優良大企業でも手元現預金はせいぜい売上の2ヵ月分ぐらいしか持っていない。固定費見合いのキャッシュ流出はそう簡単に大幅に減らせないので、売上が大幅に落ち込むと、どんな大企業であってもあっという間に手元資金は枯渇する。
厄介なのは、この第二波は日本が国内の爆発的感染をうまく抑え込めても、主要市場である欧米で今のような状況が続き、中国が爆発的な大量消費モードに戻らなければ、日本のグローバル大企業や関連する地域の中堅・中小企業に押し寄せてしまうことである。
・F(フィナンシャルクライシス)の第三波
数週間、数ヶ月、半年単位で、売上が消えてしまうと、そこで生じる資金繰り融資は「赤字補填」融資となり、売上が戻らない間はどんどん借金として積み上がっていく。時間が経過するほど借金は重くなる一方で事業は傷んでいき、返済能力は弱まり、不良債権化する可能性が出てくる。こうした資金繰り問題が弁済可能性問題になると、今度は金融機関側のバランスシートが傷みだし、信用創出能力が毀損して金融収縮が始まり、ますます実体経済を収縮させる悪循環が生まれかねない。
コロナウイルスの爆発的感染が抑え込まれても、L型経済圏の日常消費型のビジネスはある程度回復することが見込まれるものの、耐久消費財や国際線エアラインのようなG型経済圏のビジネスが戻るには、世界レベルでパンデミックに終息感が出てこないと厳しい。またインバウンド向けのホテルや観光業など外需依存型のL型ビジネスも同様に苦戦が続くだろう。
世界中の人々がコロナショックの前のように耐久消費財や住宅を旺盛に購入し、そのための設備投資が行われ、観光やビジネスで海外旅行をどんどん行うようになるには、おそらく年単位での期間を要する。