「やりたいこと」という幻想は危険である
好きな仕事をするには「やりたいことを追い求めよ」は、必ずしも有益なアドバイスではない。自分が何を心から好きになるかなど、前もってわかるものではない。
「好きを仕事に」という幻想のせいで、人々は魔法のように自分にぴったり合った仕事が、どこかで自分を待っているのだと思うようになり、それが見つかったとなると、たちまち「これがまさに本当にやりたかった仕事なのだ」と納得してしまう。問題は、当然の結果として、それが叶わなかった時には、厄介な状況に陥ることにある。転職を繰り返したり、深刻な自己不信に陥ったりするようになる。
自分の仕事が心から好きだという人々について研究すると、大半の人は、前もってあるはずの「やりたいこと」をまず突き止めてそれを追い求める、といったものより複雑だ。
やりたいことを追い求めることは正しいのか
①「やりたいこと」など、めったにない学生たちがやりたいと答えることと、職業の選択にはあまり関係がない。追い求めるべき夢もないのに、どうやって「やりたいこと」を追い求められるのか。
②「やりたいこと」に出会うには時間がかかる
研究によれば、自分の仕事を天職だと考える人の最大の特徴は、その仕事に費やした年数だった。その仕事の経験が長ければ長いほど、自分の仕事を心から好きである傾向が強かった。最も幸福で、最も熱心な人は「やりたいこと」を追い求めた結果として職に就いた人ではなく、自分の仕事のスキルが上達するまで長い時間をかけて頑張ってきた人であった。
③「やりたいこと」は、スキルアップが生み出す
仕事であれ何であれ、モチベーションは、作業に対してやる気を本質的に感じさせるような、3つの心理的欲求(自律性、有能感、関係性)を満たさなければならない。大半の仕事は、スキルアップすればするほど、そこから生じる達成感だけではなく、職責に対する自由(裁量)が報酬として得られる。
あなたが世界に与えることができるものに焦点を当てよ
どんなタイプの仕事にせよ、心から好きなキャリアを築くには「職人マインド」が不可欠である。職人マインドは「あなたは何を世界に与えることができるのか」というアウトプット中心の考え方である。これに対して、願望マインドは「世界はあなたに何を与えてくれるのか」を重視している。大半の人の仕事へのアプローチは後者である。
「仕事が何を与えてくれるのか」のみを考えていると、現状の自分の仕事の嫌なところが過度に目につき、慢性的な不満をもたらす。さらに「これが本ようにやりたかったことか」という問題に、明確な結論を出すことができない。
今いる場所で突き抜けよう
素晴らしい仕事を決定づける条件には「創造性」「影響力」「自由度」の3つがある。これらは「キャリア資本(あなたの分野で希少で価値があるスキル)」によってもたらされる。いい仕事を得るには、まず自分がいいスキルを身につけなければならない。
このキャリア資本を獲得するには、職人マインドを取り入れることが重要である。職人マインドは、指をくわえて羨むものではなく、ただ実行あるのみである。自分の今の仕事が本当にやりたいことなのかは、ひとまず置いて、誰もが思わず注目してしまうくらいに、それをうまくやってみるべきである。そうすれば、「やりたいこと」は後から必ずついてくる。