幸せとお金の経済学

発刊
2017年10月21日
ページ数
256ページ
読了目安
309分
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平均以下でも幸福度を高めるにはどうすればいいのか
過去や他者との比較によって、人の幸福度は変化する。格差が拡大している現在において、人々の幸福度が下がっている現状を解説しながら、いかに個人の幸福度を高めれば良いのかを示唆する一冊。

広がり続ける格差

1970年代初期までは、あらゆる層の世帯で、所得は約30年にわたって同じ割合(年3%弱)で伸びてきた。ところが、1970年代初期から2007年の間では、アメリカで大幅に所得が増加した世帯のほぼすべてが所得分布の上位1/5に、中でもトップ1%に集中していた。この1%がこの国の金融資産全体の42%以上を所有していた。金融危機の直後には、所得規模の両端の層の隔たりはかなり狭まった。しかし、景気が回復し始めると、トップ層を苦しめた状況はすぐに好転し、その一方で、最下層の人々の時間当たりの賃金は停滞し続けた。2013年には、稼ぎ手のトップ1%は所得の伸び全体の93%を手にした。

1970年から2007年にかけての税引き前所得の格差拡大は、技術の変化や競争の激化の結果、あらゆる領域で最も有能な人材の経済的影響が大きくなったために生じた。そしてこの一人勝ち状態の傾向は継続しているため、格差はまだまだ広がり続ける可能性が高い。

幸福度はGDPで測ることはできない

従来の経済モデルは効用(消費者が消費する財から得る満足度)が絶対的な消費だけで決まると想定している。けれども、効用は消費が起こるコンテクスト(物事や人が置かれている状況や関係)にも大きく左右される。このコンテクストが問題になるのは、単に人間の脳があらゆる評価判定をする「基準枠」を必要としているからである。いついかなる場所においても、評価は過去との比較や他者との比較というコンテクストで決まる。

人が置かれているコンテクストは、主観的評価だけでなく、自身の人生における成功さえも左右する。例えば、平均的な世帯の場合、コミュニティの平均的な住居費を捻出できなければ、子供たちを平均以下の学校に通わせなければならない。

絶対的所得は、主観的な満足度はもちろん、人生の重要な場面における成功や失敗のいかんを測る基準としては、不完全である。にも関わらず、コンテクストを完全に無視した評価基準である「1人当たりGDP」が依然として幸福度の基本的な指標として世界中で使われている。GDPと幸福度の相関性は説得力に欠ける。

格差の拡大によって中間所得層の幸福度は下がる

幸福度に影響を及ぼす要因は所得以外にもたくさんあり、最も重要な要因には遺伝による気質がある。しかし、気質を考慮しても、平均所得と平均幸福度の間には強い正の関係がある。

但し、絶対的な所得が一定の値を越えると、全員の所得が同じ割合で増えても、幸福度はほとんど変化しなくなる。最貧国では、全員の所得が増えれば幸福度も増す。一方、先進国では、絶対的な所得が幸福度を大きく左右することはない。つまり、相対的な所得が大きく増えると、主観的幸福度も大幅に上がる。一方、相対的に大きく遅れをとっている中間所得増では、これに伴って幸福度が下がる。

地位獲得競争から抜け出すことが幸福度を高める

うまくすれば最高に健康で幸福になれるはずなのに、私たちは周りの状況に影響されやすいモノやサービスばかり購入し、影響されにくいものをほとんど購入しない傾向がある。今後、そのアンバランスな支出が自然に修正される可能性は低く、さらにバランスが悪くなると予想される。アンバランスな支出が拡大している原因は、収入や財産が富裕層にますます集中していることである。

自分のポジションに対する関心が対象によって変化するとすれば、地位財(大きな住宅など)をめぐる支出競争は、非地位財(交通渋滞からの解放、家族や友人との時間、休暇など)から得られる幸せを減らしてしまう。非地位財の消費が重視されている社会の方が主観的な満足度が高いことがわかっている。