デジタルエコノミーはいかにして道を誤るか

発刊
2017年10月20日
ページ数
362ページ
読了目安
516分
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労働力が余る時代に社会は何をすべきか
デジタル革命によって、労働力が余る時代になっている。今後、AIの進歩などによって、人の仕事が失われていく中で、社会はどのように課題を解決していくべきかを論じている一冊。

雇用が右肩下がりに減り続けている

この20年間、豊かな先進国でインフレ調整後の賃金は伸び悩んでいる。国によっては20年以上前からだ。そして、労働者に配分される所得の割合は、事業主や資産家とは逆に下がっている。さらに労働者の間でも格差が大きく広がり、高額所得者に配分される所得の割合が激増している。

対照的に急成長する新興国の賃金は上がってきた。とはいえここでもやはり、資本家と一握りの高額所得者の給与に所得が集中するという2つのトレンドが懸念を生みつつある。そして、アメリカでは、現在職に就いているか求職活動中の働き盛りの成人男性の割合が、この30年間ほど右肩下がりに、一部では急激に落ちている。全男性では労働参加率が1990年の約76%から2015年には69%に減少した。このトレンドはアメリカに限ったものではない。ヨーロッパでは、25歳未満の成人の5人に1人が失業している。

多数の人々にとって、仕事は確実に手に入るものではなくなり、生活を保障してくれるほどの報酬を得られるものでもなくなっている。

労働力の余剰をもたらした原因

仕事を変質させたデジタル革命の要素は3つある。この3つのトレンドが重なって労働力の余剰が発生した。

①自動化
事務員や溶接工など一部の職業に置いて、新しいテクノロジーが人間に取って変わりつつあり、今後その対象は運転手からパラリーガルへと広がっていく。

②グローバリゼーション
情報技術が、過去20年間で世界中に広がったグローバルなサプライチェーンを管理することを可能にした。

③スキルの高い少数の人間の生産性向上
スキルの高い一部の労働者の生産性をテクノロジーが大きく押し上げたことで、以前なら大勢の人員を要した仕事が彼らだけでできるようになった。

労働力供給の過剰のマネジメントは難しい

誰かが機械に職を奪われれば別の誰かが得をする。すると別のところで使われるお金が増えるので、その消費が失業した労働者に仕事を作り出す。経済学者は、この魔法のような再配分が、柔軟な価格と賃金という奇跡によって起こると考える。しかし、多くの労働者の賃金が頭打ちになって格差が広がり、それ以外の多くの人々が仕事の世界とは縁遠くなる。そしてどこかで破綻が起きる。社会が仕事を下支えするか仕事の代わりになるものを作り出す方法を見出すか、さもなければ労働者が自分たちの世界を破壊する力を、政治システムを使って弱体化することになるだろう。

共有の富を再分配することが政治的課題に

労働力の余剰は、紛れもなくテクノロジーの進歩の1つの到達点である。それは生きるために必死で働く必要がなくなるということだ。つらい業務を自動化するか、仕事を広くシェアして個々の労働者が心身共につらい労働に費やす時間を減らせる手段が見つかれば、それは間違いなく人類の進歩と言える。

単純労働に費やされる時間を徐々に縮小しながら、生産性の高いテクノロジーによって生み出された共有の富を社会に分配すること、管理が必要なのはそれだけだ。しかし、難しいのはこの再配分だ。労働時間をまんべんなく引き下げられるように生産の成果を均等に分配することは、未だ果たされていない。それが実現できていないのは、政治的に非常に難しいからである。

労働と再分配の持続可能なバランスを編み出すのは想像を絶するほど難しい。特権を享受する富裕層を支えるための金銭的負担をしたがらない。富裕層が提案するような再分配は、不公正とも言える所得格差を残すだけだと貧困層は思うだろう。下手な再分配策を取れば、能力や意欲のある個人が経済を良くするために働こうというインセンティブが失われ、成長が停滞したり、社会の全ての構成員に生活水準の向上をもたらす社会的余剰が足りなくなったりすることになりかねない。労働力の余剰を克服するために社会に変化を起こすとなれば、歴史上の闘争が再来する。