外国人が熱狂するクールな田舎の作り方

発刊
2018年1月16日
ページ数
208ページ
読了目安
231分
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何もない地方の観光戦略の要諦
岐阜県最北端の飛騨市に、世界80ヵ国から毎年数千人の外国人観光客を集める人気ツアーがある。タダの田舎の日常風景も立派な観光資源になると説き、飛騨市の観光戦略の取り組みと、これから日本に必要な観光戦略のあり方を紹介している一冊。

クールな田舎をプロデュースする

観光協会では、民間企業の経営手法を取り入れ、「世界に通じる飛騨市を目指して」というスローガンを具現化するための具体的なアクションプランを列挙した。中でも重要なのは2つの項目で「英語版を実装した多言語サイト」と「ガイドツアーの実施」だった。

飛騨市は隣に高山や世界遺産の白川郷が控えており、それらと異なった魅力を発信して認知してもらうことができない限り、決して旅行者は足を運んでくれない。飛騨市に足を運んでもらう理由として「ガイドツアーの実施」を掲げた。

飛騨古川はとても素敵な静かな街であり、町並み景観としては国選定の伝統的建造物群保存地区である飛騨高山ほどの華やぎはないが、地域らしさはよりリアルに感じることができる。そんなわかり難い良さを伝えるためには「ガイドツアー」という仕掛けが必要だと提示した。そしてSATOYAMA EXPERIENCEの前身「飛騨里山サイクリング」が世に生まれた。

タダの景色でお金を稼ぐ

飛騨里山サイクリングというサービスは、極めてシンプルなツアーである。その名の通り、飛騨の里山風景の日常について、楽しく感じて、知って頂くプログラムである。古い町並みを擁する飛騨古川の中心市街地から、周辺の農村部に向けてゆるゆると自転車にまたがって出かける。自転車で進んではストップし、ガイドがゲストに向けてその周辺の目に見えるものを説明する。この繰り返し。例えば田んぼのど真ん中で水田を見ながら、田んぼの話やお米の話をする。少し先に進むと飛騨牛農家の畜舎に立ち寄ったり、農産物直売所に立ち寄ったりと、そこここの飛騨人の日常にお邪魔するイメージである。

田んぼの景色は本当に世界中の人々を魅了するようで、中心市街地から農村部に抜けた瞬間、外国人のゲストたちは驚嘆し、写真を撮りまくっている。飛騨人が「当たり前」と謙遜する飛騨の日常風景は、実は世界中から訪れる方々から見れば、宝の山と言っても良い。

当たり前を商品化せよ

SATOYAMA EXPERIENCEと同様の取り組みが他の地域でも実現可能かと聞かれることがあるが、原則的にどこででも成立可能だと感じる。それほど、全国各地の地方部が守り続けてきた「日常」は、世界中に住む人たちから見たら、特別なものである。一言に「古民家」と言えど、飛騨地域と同じ山村地域でも、その地域の自然環境に合わせ、屋根勾配や材料、間取りは違ってくる。田んぼでも畑でも、水の引き方や育つ作物が異なり、よく見ればそれぞれの地域らしさが点在している。例祭や集落行事なども、その地域の日常にとっては「当たり前」でも、世界からの視点で見れば個性豊かな資源の集合体と言える。

インバウンド・ツーリズムを中心とした新たな観光産業は、今までの日本の観光産業とは別の方向性でまだまだ成長の余地がある。過去の延長線上で新たなブレイクスルーが見当たらないエリアにおいて、観光は地域再生の最後の砦と言ってもよいわけで、そういう視点でも施策の是非を考える必要がある。

SATOYAMA EXPERIENCEのフィールドは、素晴らしくはあるけれど、日本全国どこにでもある風景とも言える。重要なのは、それに触れられる形態、すなわち商品にすることである。空気が綺麗、景色が綺麗と言ったところで、地域に滞在拠点がなく、それを体験できるガイドツアーもなければ宝の持ち腐れである。その意味で、観光立国の課題は需要ではなく供給にある。