理想を掲げた現実主義者になる
イーロン・マスクがどんな人物なのかを考える時、最初に浮かぶのは「とんでもなくでかい理想をぶち上げて、それを実現させてしまう人物」というところ。理想を描くのは、今のリーダーに求められる重要な要素の1つである。
イーロン・マスクは、理想を失わない現実主義者である。奇想天外な理想をぶち上げる一方で、実際の現場では、気の遠くなるほど複雑な研究を続けたり、嫌になるような根気強い交渉をしたり、爪に人を灯すような努力をすることで新技術を生み、開発コストを下げていく。そうした果てしない努力の先に「実現に向けた第一歩」は存在している。
理想を掲げた現実主義者になる
火星移住という目標を掲げるスペースXは、コストという現実と対峙している。そもそも、ロケットの総コストの3/4は1段目ロケットが占めている。だからこそ、1段目ロケットを再利用できれば、劇的にコストを下げることができる。そう頭で考えてはいても実際に挑戦した宇宙企業はなかった。それぐらい1段目ロケットを再利用するのは難しく、技術的に100%不可能だと思われてきた。
まともな会社経営者なら、まず使い捨てのロケットでいいから、打ち上げに成功することを第一目標にする。そして、打ち上げに何度か成功したら、1段目ロケットの再利用に挑むのが定石である。しかし、イーロンの目標はあくまでロケットの再利用。スペースXの技術者たちには、最初から「再利用可能なロケットを作れ」と檄を飛ばした。
スペースXの最初のロケット「ファルコン1」は打ち上げに3度も失敗。その間、資金はどんどん減っていった。しかし、高い目標を掲げてファルコン1を作り上げたおかげで、その後、ファルコン1の9倍の推進力を持つファルコン9は、1 段目ロケットの再利用という偉業を短期間で成し遂げることができた。
もしもイーロンが、どこにでもあるようなありふれた陳腐な理想しか掲げていなかったら、部下達が死に物狂いで仕事に挑むなんて、決してしない。とんでもなく高い理想があるからこそ、部下達は脳みそから汗が出るほど知恵を絞り、常識の壁に対し狂ったように挑戦できるのである。
ギブン・コンディションを超える
イーロン・マスクをはじめ、世界を作り変え、未来を創造していく人たちの発想は、出発点が根本的に違う。与えられた状況、即ち「ギブン・コンディション」などお構いなしに、「何を実現したいか」ということにストレートにアプローチしていく。例えば、「宇宙ロケットの開発コストを1/100にする」という時、ギブン・コンディションで考える人は、当然「現実的でない」などと言い出す。
しかし、ギブン・コンディションを超えていく人は、常識や過去のデータに囚われることなく「抜本的なイノベーションを起こせば、実現できる」というマインドで常に考える。
イーロン・マスクとスティーブ・ジョブズにはいくつかの共通点があるが、「妥協を許さないプロダクト・ピッカー(製品の細かいところまで口出ししてくる、やかましいタイプ)」という点は、かなり目立った共通点と言える。ジョブズ
のプロダクト開発は、徹底したユーザー目線と揺るぎない美的感覚に基づき、とにかく妥協を許さない。一方のイーロンは、ユーザー目線よりも物理学的思考である。ゼロから考えるのがイーロン流で、細かな設計の部分にガンガン入り込んでくる。