企業の労働生産性を上げよ
働き方改革と称して、残業をなくそうと絶対的な業務量を減らさないまま、時短や定時退社を促したり在宅勤務を呼び掛けても、現場にシワ寄せがいくだけで本質的な問題解決にはならない。
単純に労働時間を減らせば労働生産性が上がるという短絡的な思考は危険だ。最悪の場合、帳尻を合わせようと見えないところで手を抜いたりごまかしたりして、品質やコスト、納期、コンプライアンスなどに悪影響を及ぼしかねない。
真の働き方改革は、かけ声や個人の心がけ、精神論だけでは実現できない。重要なのは、企業における「労働生産性」だ。これまでの仕事の仕方を見直して、一人ひとりの働き手が時間当たりに生み出す付加価値を、根本から見直すことである。そうして「生産性が上がった時に、労働時間が減る」のだ。
生産性向上の鍵は「業務プロセスの標準化」
長時間労働につながりやすい職場慣行を働き手に尋ねたアンケート調査によると、最も多かった回答が「業務の属人化」だ。2番目以降は、「時間管理意識の低さ」「業務効率の悪さ」「業務の標準化不足」と続いている。つまりは、働き方を見直して工夫することで、人手不足の環境下でも長時間労働を是正する余地が十分にある。
勤勉な日本人が、なぜ低い労働生産性にとどまってしまうのか。その多くの原因が、組織やシステムで分断されている「非効率な業務プロセス」にあると考えられる。一般的に、企業内部の仕事は一人の担当者が単独で完結させることは少なく、組織を横断して多くの人をリレーしながら進んでいくことが多い。
例えば、見積から受注、納品、請求、入金に至る一連の業務が、多くの組織や人を横断し、各種の様々なシステムと連動しながら実施されていく。ところが、それぞれの業務の結節点を見ると、各組織の担当者が次の業務の担当者にメールで連絡したり、出力された印刷物を見て再入力するなど非効率この上ない。こうした状況は「業務効率の悪さ」につながってくる。
部署を越えてより良い仕事の方法を見つけ出し、参照すべき雛形やガイドラインとして組織全体で共有し、それをもとに現場の改革・改善を継続できれば、組織やシステムで分断している非効率な業務プロセスは解消されていく。また「業務の標準化」が進むことで、「業務の属人化」の排除にもつながり、役割と責任が明確になる。
働き方改革の本質
業務プロセスをデジタル化することで、人手による重複入力やチェックと行った作業が削減され、プロセス全体のリードタイムが短縮されることになる。それにより余剰となるリソースは、企画などのよりクリエイティブなタスクへと割り当てられ、新たなサービスを生み出すことになる。
業務プロセスを見直してデジタル化を進めることにより、「業務の属人化」「業務の標準化不足」の課題を解消し、長時間労働の原因である「業務効率の悪さ」にメスを入れていく。このことが、組織全体の業務パフォーマンスの向上、つまり労働生産性の向上につながる。また、管理者がこれらの業務パフォーマンスをひと目で俯瞰できるようにすることで、「時間管理意識の低さ」も改善できる。業務プロセスのデジタル化による生産性の向上は、結果として短時間で付加価値の高い仕事を実現する。このことが、一人一人の従業員に対して、多様性のある働き方を企業としてサポートすることにつながる。