概念シフトとは
概念シフトとは、ある対象のイメージが大きく変化し、「既存の当たり前」が「新しい当たり前」へと塗り変わる現象を指す。概念シフトが起こるプロセスでは、これまで重視された価値が徐々に新しい価値へと置き換わり、私たち自身の行動にも変化が伴う。その結果、人々はもう以前のように物事を見られない不可逆的な変化が起こる。
- AirPods:音楽を聴くためのもの → 音声を聞く・話すもの
- スターバックス:一服する場所・誰かと話す場所 → 自分の好きなことをする居心地の良い場所
概念シフトには3つの特徴がある。
- なめらかな変化:水面下で概念の変化が進行し、気づけば大きな変化を遂げる
- 不可逆な変化:新しい経験や周囲の環境変化によって、対象のイメージが大きく変化し、そうとしか捉えられなくなる
- 新しい課題を生み出す変化:副次的に新しい課題や問題が生まれることもある
概念シフトは、実際の現象が起きている「現象の世界(客観的世界)」と、私たちが認識する「概念の世界(主観的世界)」との「ズレ」に起因する。現象の世界と概念の世界の間には、2つの方向から「ズレ」が生じうる。1つは、制度やルールの変更、技術革新の到来、社会人口動態、経済状態、自然環境の変化などによって、現象の世界が変化し、既存の概念とのズレが生じる場合。もう1つは、新しい社会概念の登場など概念の世界の変化によって、既存の現象に対する認識が変わる場合だ。概念シフトは、このようなズレを解消しようとする過程で発生する。
概念シフトを促す4つのドライバー
私たちは、過去の経験からつくられた概念を使って、目の前の世界を予測している。そして、実際に入ってくる情報とのズレを小さくしながら「今何が起きているのか」を理解している。そして、知覚された状況をもとに次の行動を選択する。
そして、人は行動によってこれから得られる結果を変えようとする。その目的は「望ましい結果を得ようとする報酬の最大化」と「情報の獲得」である。概念を変える上で特に重要なのは、「情報を得るための行動」だ。自分で行動すると「何をすれば何が起こるのか」がわかる。つまり、概念を変える上で重要なのは「XをすればYが起こる」という因果の情報だ。新しい概念へ移行するには、受動的に新しい情報に触れるだけでは不十分で、新しい因果関係を身体的に理解する「新しい行動」をいかに促すかが鍵になる。
人は、無数の予測を立てて行動を起こし、世界に適応している。但し、私たちの心には変化に抗う「現状維持」と「不確実性回避」というブレーキも働く。こうした変化への抵抗を乗り越えて、概念シフトを引き起こすには、4つのドライバーがある。
①環境構築
環境構築とは、製品、サービス、コンテンツ、イベント、教育システムの創出など、私たちが接触できる客観的世界に関与するドライバーである。環境は人の脳の活動パターンに影響を及ぼす。環境構築において、概念シフトを起こすための鍵となるのが次の3つの要素の設計である。
- 価値:潜在ニーズの充足や課題解決を最終ゴールにせず、既存の価値観の延長に見える入口を用意する
- 道具:道具のスペックや機能を、既存の行動ではなく、新しい行動を可能にするかという点で評価する
- 行動様式:何らかの状況において、人々が自然と選びたくなるような新しい振る舞いを設計する
②記号構築
環境構築によって生まれる新しい客観的世界と主観的世界にはズレが生まれる。この現象と概念のズレを埋め、人々が新しい世界を捉えられるようにするのが、記号(言葉や指標など)の構築である。この記号は大きく3つに分類できる。
- 名詞的記号:「Z世代」「パワーカップル」など
- 動詞的記号:「リサイクル」「推し活」など
- 形容詞的記号:「GDP」「フォロワー数」「カロリー」など
③行動誘導
特定の行動へと人を導く仕組みを指す。既存の習慣から新しい行動へと移行させる行動誘導として機能する仕組みが次の2つである。
- メカニクス:行動に伴う報酬を強化し、実行時の摩擦を取り除き、行動の結果や状況の解像度を高めることで機能する
- ナラティブ:行動を選択する際の意味づけを提供する
④秩序構築
記号に結びついたイメージや行動様式、その背景にある価値観をルールや法制度、教育システムなどの社会の仕組みの中に組み込んでいく。秩序が構築されるためには、次の4つの要素が重要になる。
- コミュニティ:秩序が形成されるには、新しい情報が生まれ、共有され、蓄積される拠点としての人々の集団が必要である
- 理論:物事の意味や価値、良し悪しを判断する際のロジックを支える
- 正当性:社会から「その存在は信頼に値する」というお墨付きを与える
- 制度:社会のシステムの一部に組み込む
4つのドライバーは独立して機能するのではなく、互いに補完し合い、統合されることで概念シフトを加速させる。