NEXT TESLA
かつての気候テック(クライメートテック)は脱炭素化という緩和の側面に資金が集中していたが、昨今ではAIやDCの急激な普及に伴う天文学的な電力需要の増加を背景に、エネルギー分野への投資が急増している。気候テックは、単なる環境保護活動の延長線ではなく、人類の経済活動の根幹を成すあらゆる産業領域において、最先端の技術と新しいビジネスモデルを駆使してパラダイムシフトを引き起こす取り組みである。
気候テックの成功事例の筆頭に挙がるのがテスラである。テスラの最大の特徴は、既存の産業構造を根本から破壊し、再構築するための垂直統合という戦略と、それに伴う独自のエコシステムの構築にあり、単なる自動車メーカーの枠に収まらない。現在、欧米のVCや投資家の間では「NEXT TESLA」という言葉が日常的に語られており、それぞれの領域において、テスラのような旧来の産業構造を打破し、徹底した垂直統合によって新たなエコシステムを築き上げる企業が、次々と誕生しようとしている。
NEXT TESLAはどの領域から誕生するか
「技術成熟度」「ビジネスモデル」「市場規模」という3点に着目し、6つのテーマを選定する。
①低炭素データセンター
米国のDCでは、冷却がDC全体の消費電力の約38〜40%を占めるとされ、電力の多くが「演算」ではなく「冷却」に費やされるリスクが高まっている。そこで空気の約25倍の熱伝導率と約3200倍の熱輸送能力を持つ水を利用した「液冷」への移行が不可避となっている。
DCは、現在のサーバースペースの貸し出しに近い不動産業のような側面は薄れていき、爆発的な電力消費量の増加を最大限抑制するための液冷技術の社会実装が2030年頃までに急速に進む。さらに発電から演算までの完全掌握によるフルスタック型のビジネスモデルや、冷却技術のパラダイムシフトが起こることによる事業拡張性などが勝者に莫大な収益をもたらす。
②エネルギー貯蔵×最適化時代
電力は貯められないという常識が根底から覆されようとしている。リチウムイオン電池の価格破壊、AIによるグリッド制御の高度化、生成AIが引き起こすDC電力需要の爆発が、エネルギーの貯め方と流し方を根本から再設計する巨大な産業を生み出しつつある。
エネルギー貯蔵と電力最適化を理解するには、次の4つの技術群を体系的に把握する必要がある。それぞれが異なる時間軸と空間軸で電力システムの課題を解決し、組み合わさることで初めて変動性再生可能エネルギー主体のグリッドが成立する。
- BESS:LFP電池を採用し、価格水準は劇的に低下
- VPP&DER:一般家庭や企業の太陽光発電、蓄電池、EVなどを統合制御
- LDES:長時間の蓄電を実現する技術群
- GETs:既存の送電線やインフラの効率を劇的に改善するHW/SW
③次世代原子力
AIによる爆発的な電力需要は、原子力をSMR(小型モジュール炉)という姿で、再び表舞台へと引きずり出している。短期的な電源確保という観点では、核融合よりもこちらが本命と見られている。
次世代炉の多くは、冷却に水ではなく溶融塩や液体ナトリウム、ヘリウムガスを使用する。これらは数百℃でも沸騰しないため、大気圧に近い常圧での運転が可能であり、設備が劇的に簡素化される。
次世代原子力が「NEXT TESLA」となる鍵は、工場生産によるコスト革命と、エネルギー・アズ・ア・サービスの普及にある。
④次世代地熱
地熱開発における最大のリスクは、採掘の不確実性であり、数十億円を投じて井戸を掘っても十分な蒸気量が得られないドライホイールのリスクが常に付きまとう。「次世代地熱発電」は、シェール革命で培われた水平採掘技術や、核融合研究から派生したミリ波採掘技術を駆使し、従来の地熱発電が依存していた地理的制約を取り払おうとしている。
⑤核融合
核融合研究における大きな動きは国際共同プロジェクトの立ち上げだ。現在、世界各国で核融合装置が稼働・建設されている。
最高峰の参入障壁を持ち、商業発電が実証されれば「NEXT TESLA」たる企業が誕生する可能性は十分にある。一方、サプライチェーンの未成熟、国家安全保障上の輸出制約、建設対製造の構造的壁により、核融合がEVや蓄電池のように急速な覇権を握ることは困難である。
⑥CDR×低炭素燃料
CDR(二酸化炭素除去)技術の戦略的重要性を飛躍的に高めるのが、回収したCO2の出口としての低炭素燃料である。DAC(直接空気回収)で回収したCO2とグリーン水素を化学合成すれば、既存エンジンにそのまま使えるドロップイン型の合成燃料eフューエルが得られる。
但し、市場の自律性確立・需要基盤の多角化・政策インセンティブからの自立に時間を要するため、達成条件は厳しく、ハイパースケーラーや政策との接続が継続的に必要となる構造的特性がある。