マスキズム 新たな独占の時代

発刊
2026年5月26日
ページ数
320ページ
読了目安
340分
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イーロン・マスクの思想がよくわかる本
イーロン・マスクが何を考えており、どのような思想を持っているのかがよくわかる一冊。
スペースX、テスラ、Xなど、社会のインフラになりつつある企業を持ち、社会的影響力を持つイーロン・マスクの過去を振り返りながら、その目指す先が明確に描かれています。

ある意味で国家や個人もテクノロジーに依存し、イーロン・マスクの独占が成立しつつある現代において、今後の社会はどのようになっていくのかを考えさせられます。

21世紀のOS「マスキズム」

マスクは1人の人間というより「マスキズム(マスク主義)」という世界観を象徴するアバターだ。マスキズムは社会的な利益を万人に分配しようとするものではない。マスキズムが約束しているのは、テクノロジーによる自立である。

マスクは、ただ車やロケットや人工衛星を売っているのではない。彼が売っているのは夢物語だ。安定になりゆく世界において、国家も個人も、マスクのインフラに接続することで自立性を高めることができる。しかし、逆説的に、自立しようとすればするほど、マスクに依存することになる。各国はデータやテクノロジーを外部に依存せずに自立する「技術主権」の確立を目指しているというが、それはマスクの「ウォールド・ガーデン(壁に囲まれた庭)」への入り口だ。そこは隔絶された「クローズド・プラットフォーム」であり、マスターキーはマスクが握っている。米国国防総省もNASAもスペースXに頼っている。戦場においてもスターリンクが手放せなくなっている。XもGrokも国家のシステムに組み込まれつつある。

 

技術主権は選別的でもある。ある人には自立をもたらすが、別の人には排除をもたらす。移民の群れと、それを支援するリベラルたちは「社会正義に目覚めた思想ウイルス」の媒介者であるため、追跡し、隔離し、無力化する必要があると、マスキズムはみなしている。マスキズムには技術主権の他、「排斥」という側面があり、SNSでの言論粛清、AIモデルのイデオロギー浄化、民族的異分子の大量強制送還などが行われている。最終目的は、優れたテクノロジーで守られた、文化的にも遺伝子的にも欧米系白人で構成される純化されたコミュニティを築くことだ。

 

多くの人が彼のことを政府嫌いの自由至上主義者だとみなしているが、実際には逆だ。マスクは国家と一体化することで自身の帝国を築いてきた。

マスキズムは、より人間性の希薄な未来を思い描いてもいる。自動化が進むことにより、人間は生産のプロセスから排除されていく。SNS、ブレイン・コンピュータ・インターフェイス、人工知能を通して人間は機械と融合していき、「サイバネティック・コレクティブ(人と機械の融合ネットワーク)」を形成していく。マスキズムが謳う技術主権は、サイボーグの形をとるのだ。

 

私たちは現在、マスキズムが隆盛しうる時代を生きている。民主主義世界全体において、既存の制度に対する信頼はかつてないほど低下している。極右勢力は反移民感情の高まりが追い風となり復活を遂げている。マスクはその最も声の大きな代弁者だ。

技術主権というマスキズムの目標は、統合よりも独立の重視に傾く「脱グローバル化世界」の政治に見合うものだ。混乱している社会も将来的には新たな基盤の上で安定を取り戻すだろうが、その基盤がマスキズムとなる可能性がある。

 

マスキズムの原点

南アフリカは白人至上主義国家であるだけではなかった。アパルトヘイトという制度の設計者たちは未来主義者を自認していた。彼らがテクノロジーを取り入れたのは、昔から続くオールドスタイルの人種的不平等をより強固にするのに役立つと目論んだからだ。南アフリカは、共産主義と黒人ナショナリズムという二重の脅威に晒されており、現代的な手法やテクノロジーを導入するしか、国家が確実に生き残れる道はなかった。

ある意味で、南アフリカは我々の時代の先駆けだと言える。軍事化し、現代的な技術を取り入れながら孤立を選ぶというスタイルは、輸出規制、貿易戦争、再軍備国内回帰が進む現代からすると自然なものに感じられる。

 

マスク本人と出身国の関係は複雑だが、アパルトヘイト下の南アフリカこそがマスキズムを生んだ土地だった。この国が授けたのは「要塞型未来主義」という教訓だった。テクノロジーを用いれば、敵意に満ちた世界の中でも自立を強化できるという信念である。

 

国家との共生による独占

1990年代、南アフリカを去ったマスクはシリコンバレーから教訓を得た。「本当の機会は国家から逃れることではなく、国家と融合することにある」。国家という保証を、私的な利得の足場とするのだ。政府とは「小さく」したり排除したりすべきものではない。むしろ、権力や利益の源泉として利用しうるものだ。目標は国家からの脱出ではなく、国家との共生である。

 

マスクは、シリコンバレーで国家によって支えられるという条件の下、アイデアを企業に変え、企業を独占へと変えていくためのツールとルールに出会った。インターネットが万物をコードへと変えていく。アメリカ政府が、その未来に資金を出す。だが、所有するのは民間資本である。

 

成長のための長期の損失をいとわず、市場を作り、莫大な利益を吸い上げろといったシリコンバレーの考えは、やがて「起業とは戦闘であり、目的は征服である」という教義へと結晶化し、マスキズムの核となっていった。