ロジカル思考とデザイン思考
ロジカル思考の主な武器は「分析」だが、これは「分ける」ことで「分かる」ようにすることである。「ロジック」とは「論理学」的な手続きなので、その手続きに従えば理論的に誰もが「同じ」解に辿り着けるため、ロジカル思考は明快である。
ロジカル思考は「顕在課題」を扱う思考法である。目の前の課題を小さく分解して解決策を見出し、さらにその解決策をみんなで共有し、共通理解を得ることができるので、組織一丸となって解決策を実行できる。
一方、見てもわからない「潜在課題」に対応すべく生まれたのが「デザイン思考」である。デザイン思考は、まだはっきりと見えていない課題を「見える化」し、ニーズ自体を見つける思考法である。デザイン思考は、ロジカル思考のように机上で分解していくだけではニーズに気づくことはできないと考える。大事なのは生活に入り込み、共感することである。
デザイン思考には共感する感性や敏感さ、顧客を洞察する力と解像度が必要で、万人向けではない。さらに観察する「対象」を必要とするため、誰のどんなニーズを解決するのかが全くわからない状態では使えない。
アート思考は違いをつくる
2015年頃より「アート思考」という言葉が聞かれるようになった。アート思考は、なんとなく共通する要素はあれど、定義や手法はまだ確立されていない。アート思考は一言で言えば「藝術家のように思考する」ということ。その共通点は以下の通り。
- アートの創造プロセスにならう
- 課題解決ではなく自分起点の動機を重視
- 既存の価値観を超え、価値を革新する
アート思考は「違い」を生み出す思考法である。そして今アート思考が求められている背景には、価値のパラダイムの変化がある。日本は既に成熟市場で、欲しいものは何でも手に入り、ニーズは飽和し、多様化している。その結果、「工場」パラダイムから「アート」パラダイムへと変化している。
- 工場のパラダイム:「同じ」が価値で「違い」が生まれると不良品や欠陥として扱われる
- アートのパラダイム:「違い」が価値で「同じ」では価値が低い
市場の飽和と供給過多によって、価値の源泉は「同じ」から「違い」へと180度転換した。ロジカル思考やデザイン思考は「同じ」を生み出すのに向いている。一方、アート思考は徹底して「違い」をつくる。今後、AIによって大量の「同じ」が再生産されるほどに「違い」の価値は高まる。
アートが「違い」を生むのは徹底してユニークな「自分」に即して創作するからである。藝術家は模倣や常識から離れ、「他分」をはぎながら「自分」を問いつつ作品をつくる。
それぞれの思考法の特徴
思考法には、それぞれに特徴があり、どれかが優れているということではなく、目的に応じて最適なものは変わる。それぞれの思考法は以下のように例えられる。
- ロジカル思考:説明文(共通理解)
読む人によって解釈にブレなく、誤りなく伝わることが重要であり、目的は「共通理解」にある。
- デザイン思考:コピーライティング(共感)
「正しさ」だけでなく感性が重要。意味内容として同じでも、言葉遣いや響きによって効果は大きく変わり、目的は「共感」にある。
- アート思考:詩(多義性)
「わからない」ために読む人によって異なる意味を持ち、「違い」を生む。
正解や効率に慣れている人にとっては「詩」や「アート」は非効率に思えたり、難解に思えたりする。しかし、その不安定さからこそ生き生きとした新しい価値は生まれる。アート思考とは記号化された世界に抗い、「自分」の中のノイズに耳を澄まし、「詩」のように表現する思考なのである。
アートの出発点
アート思考は価値革新を目指すが、ただ「新規性」があればいいのではない。より重要なのは「新しさ」より「らしさ」である。このスピードの速い時代には「新しさ」はすぐにコピーされ、価値が陳腐化してしまうからである。
「らしさ」を生み出す入り口は、「偏愛」や「違和感」のような理屈を超えた個的な感覚にある。「偏愛」や「違和感」は、他の人の常識といった抵抗を乗り越えるエネルギーになる。既存の枠組みを超えたユニークなアイデアは、自分にも理屈ではわからない「偏愛」や「違和感」から出発するからこそ創り出すことができる。
多くの人は日頃「自分」起点で仕事をしていないが、「自分」の「偏愛」や「違和感」を起点に仕事をつくるとアイデアに熱量が生まれる。歪さや偏り、癖から生まれる熱量こそ、AIが持ち得ない価値である。